ファントム殺人事件 第二幕_2

クリスティーヌは疑念に悩みため息をつく


翌日…やはり生徒会は忙しい。
カードの事で寝不足だがノンビリもしてられず、ギルベルトも忙しく立ち働いている。

「ファントムの事、わかったか?」

アーサーに声をかけられ小さく首を横に振るギルベルト。
そこで視線を向けた拍子に、アーサーも心持ち顔色の悪いことに気づく。

「あのな…安心しろ。相手が誰であれ、お前の事は俺らがちゃんと守るからな。」

忙しいと言っても自宅に仕事を持ち帰ったりしているわけでもないし、学校の門が閉まるのは夜8時なので生徒会長と言えどそれまでには帰宅している。
なのにうっすら目の下に隈があるのは、今回の騒動の心労で眠れていないのだろうか…。

「守る…か…。」
ギルベルトの言葉にアーサーが少し苦い笑みをこぼして呟いた言葉にひっかかりをおぼえて、ギルベルトが小声で

「…トーニョと何かあったのか?」
と聞いてみると、一瞬アーサーの瞳が揺れて、しかしすぐに

「いや、何も…」
と返答が返ってくる。

この一瞬の間が怪しい…というか、これは何かあったな、と、ギルベルトは少し考えこんで、それから隣に立ちすくむアーサーに

「俺で何かできるか?」
とさらに聞く。

その言葉にアーサーの瞳がさらにさらに揺れる。

そして、泣くのをこらえるように少し唇を噛み締めて俯くと、

「…ギルと……二人で昼メシ食いたい…」
と、震える声で言った。


いつでもアントーニョ優先、最初の殺人事件の時に事情を聞くのにアントーニョがいると話をさせてもらえないから二人だけで話せないかと聞いた時にさえ、アントーニョに隠し事はできないと、否と言ったアーサーだ。

よほどの事があるのだろう。


「おっけぃ。トーニョには上手く言ってやるから、任せとけ。」
ここで事情を聞けば泣き出しそうなアーサーの頭をギルベルトがクシャクシャっと撫でると、アーサーはホッとしたように詰めていた息を吐き出した。




「メシはちゃんと食っておけよ?忙しいんだから食わねえと倒れるぞ。」

昼休み、ギルベルトは他を全員外に追いやった生徒会室の片隅でアーサーと弁当を広げた。

ちょうどタイミング良く例のカードの問題があったため、カードについて状況をアーサー自身に聞きたいが、アントーニョがいると口出しして正確なところを聞けないだろうから、二人で昼食がてら聞込みをしたいと申し出て、なんとか二人だけの昼食を勝ち取ったのだ。

そして今こうして向い合っているわけだが、アーサーは弁当を広げはしたものの一向に食べる気配がない。

おそらくアントーニョの手作りであろうトマトづくしの弁当を前に、ただただため息をついている。

「アーサー?」
その視線が今度は自分の弁当に移ったのに気づいて、ギルベルトは首をかしげた。

「……ギルの弁当は自作なのか?
以前に家の家事はほとんどギルがやってるって言ってたよな。」

と、唐突に何故か自分の家庭事情に話が移るのに戸惑いながらも、ギルベルトはうなづいた。

「ああ。まあ男所帯だから大したモン作るわけじゃねえけどな。
親父は仕事に、ルッツは勉強に忙しいし、一番余裕がある俺様が作ってんだが…。」
その言葉にアーサーの大きな瞳からポロっと涙がこぼれ落ちた。

ええ?俺?俺様なんかまずいこと言ったのか?!!
思い切り焦るギル。

「あ、あの??」
「…やっぱり…料理とか…出来る方がいいよな…」

大粒の雨のしずくのようにポトリポトリとこぼれ落ちる涙。
ひどく焦るが、その一方で綺麗だと思う。

「えっと…トーニョの事言ってんのか?あのKYがなんか馬鹿な事言ったのか?」

別に自分が料理が出来る方がいいとかよくないとか思っているかについては、とりあえず興味はないだろう。

どう考えてもトーニョだよな、と、見当をつけて聞くと、アーサーは消え入りそうな声で
「……ロヴィは……上手いんだ……」
とつぶやく。

あ~、あれかぁ…と、ギルベルトはそこでようやく原因らしきモノが思い当たった。




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