幸せ家族の作り方_11

…ティ……アーティ……

いつのまにかうたた寝をしていたらしい。

世界会議後…いや、結局会議にはならなくて、大騒ぎのあと食事会になだれ込んだわけだが……。
久々に他国に囲まれて少し疲れたようで、ホテルに戻ってスペインが風呂に湯を張りに行ってくれたわずかの間にふっと意識が遠のいた。

「…疲れとるん?風呂まで運んだろか?」
優しく髪を撫でる手が気持ちよすぎてまたうつらうつらしだすと、小さく笑う気配がした。

ゆっくりと服が脱がされる気配と、タオルのようなモノ――おそらくバスローブだろう――に包まれる気配。

ふんわりと身体が宙に浮くと、そのまま移動する。

「アーティ、お湯に入るで?」
ゆっくりと降ろされてバスローブを脱がされ、今度は温かなお湯に包まれる感触がして、その心地よさにイギリスはほぉっとため息をついた。

「…なあ……」
イギリスの後ろに座って、身をもたれかからせるスペインを少しだけ振り向いて、イギリスは言った。
「ん~?」
「それ…なんだ?」
「ん?それ?」
「…アーティ…。そんな呼び方してなかっただろ。」

「ああ…」
パシャンパシャン…と、イギリスの身体を冷やさないようにタオルでゆっくりお湯をかけながら、スペインは言う。

「兄ちゃんが…あ~ちゃんて呼んどるの聞いて…焼いてもうた~。」
「なんだよ、それ」
イギリスがクスクス笑うと、少し憮然とした声が降ってくる。

「やって…なんや俺より特別みたいやん。
たとえ相手が兄ちゃんかて嫌や~。
アーティが兄ちゃんの事ぽぉって呼ぶんもホンマは焼けるんやけど…」
「ん~でももう何百年それで通してるから今更変えるのも…」
「…せやからな、人名呼んだって?」
「…カリエド?」
「なんでやねんっ!」

本当に本気で言っているらしいイギリスの肩口にスペインはがっくりと額を押し付けた。

「普通…名前の方やん…。」
あ~、と、イギリスは手を叩く。


――アントーニョ?――
クルリと振り向いてニコリと見上げるペリドット…。

「……あかん……」

スペインは思わず片手で顔をおおった。

「ダメ…?じゃあなんて呼べばいいんだよ?」

コクンと首をかしげるイギリスに、そうやなくて……と、スペインは片手で顔をおおったまま、首を横に振った。

「アーティが可愛すぎて親分死にそうや…」
「なんだよそれっ。」
「文字通りや。もう自分なんでそんなにかわええん?」
「可愛くねえよっ」
「かわええって。もう世界でいっちゃんかわええっ!
こんなかわええのに、なんで今まで放っておけたんやろ。
ホンマ他のやつのモンになっとらんでよかったわぁ。」

親分…邪魔者消すためにまた覇権国家目指さなあかんとこやった…。

ぽつりと漏らされる小さなつぶやきと放たれる殺気に、イギリスが思わず身をすくめて振り返ると、なん?とニコリと優しい笑み。

――気のせいだったか……

ホッとしてイギリスはまた前を向き、ゆったりとスペインの胸に背を預けた。

「身体冷やす前に頭洗ったろな~」
との声にこっくり頷くと、いつものように温かく大きな手で髪を洗ってくれるのが心地よい。

「たにんに髪洗ってもらうのって気持ちいいよなぁ~」
と思わずつぶやくと、他人やのうて旦那さんに言うてや~と、ちょっと不満気にスペインが口を尖らせるのに、イギリスは小さく笑った。

「これからはずぅっとこうして洗ったるからな?」

「…子ども生まれても?」
「当たり前やん。」

「……魔法とけて男に戻ったら?」

「親分が最初にかわええって思った時はまだ、自分男やったで?」

少し不安に思っていたところをさりげなく口にしても当たり前にそんな言葉が返ってきて、イギリスはホッとした。

「ずぅっと、ずぅっとやで?」

そう…ずぅっとや。誰にも邪魔させへん。


――まあ…もう親分のモンになったし、ちょっかいかけてくるアホどもにスペインブーツ用意したるくらいで大丈夫やな。

なあ…アーティ、自分が親分の手のうちにおってくれるうちは親分は明るい皆の太陽でおれるから…親分に縛られたってな…――

こうして太陽の中の黒点がジワリ…と大きくなりかけて、また小さく埋もれていったことに、イギリスがきづくことはなかった。




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