罪作りなエイプリル・フール_2章_2

当日――酒場にて


「お~い、スペイン、フランス、飲みに行こうぜっ」

今日は色々活躍したのでドイツの機嫌も上々で、
――兄さん、今日は助かった。お疲れ様。なんなら久々に彼らとゆっくりしてきたらどうだ?
と、許可がでたためプロイセンはそう声をかけるが、フランスは
「もうっ!愛の国のお兄さんができたての恋人放置でいけるわけないでしょっ。
野暮な事言わないのっ♪」
と、隣のイギリスを抱きしめ、当のイギリスも、
――放せよ、会議場で何やってんだよ、ばかあ!
と言いつつもそれを振りほどかない。

ただ真っ赤な顔で震えているその姿は、とてもとても可愛らしく、スペインの心をかき乱した。
しかしその可愛らしさが他人のためのものと思うと、余計に心が痛む。

「ええでっ!プーちゃん、親分と飲もうやっ」
それをふっきるようにスペインがそう言って笑えば、おうっ!とプロイセンが応じた。

何かやけくそのようなハイテンション。
ロマーノはその誰にも気づかれないギリギリの精神状態のスペインに不安を覚えて

「あ~、今日は俺も飲みたい気分なんだけど?
ジャガイモ兄、当然俺もいいんだよな?」

と、それに参戦することにした。



――あの子…幸せになるとええなぁ…ずぅ~っと…ちっちゃいあの子が綺麗なまんまるの目ぇで見上げて来た頃から好きやったんや…幸せにせんと親分フランの奴に何するかわからへんわぁ~。

こうして飲みに来て数時間後…すっかり泣き上戸になったスペインがカウンターに突っ伏して泣くのに、プロイセンは苦い笑みを浮かべてその頭をクシャクシャと撫でてやる。

そのスペインの独白と、すっかりエイプリル・フールの嘘だと思っていたら、どうやらそれを保険にした本気の告白だったのだとロマーノに聞いて、普段はスペインとは仲が良いものの、自分やフランスなどその悪友とは極力距離をおいているロマーノが敢えて今日は一緒に来たがったわけがわかった。

自分はほとんど酒を飲まず、心配そうに元宗主国を見守るロマーノに、プロイセンはツマミの皿をカウンター上でスィ~っと滑らせる。

「まああれだ、お前には嫌いな俺様がいんのに心配して付いて来てくれる弟分と、小鳥のようにカッコいい俺様って悪友がいんだろうがっ」

そう言うと、硬い表情をしていたロマーノが初めて

――カッコいい小鳥ってなんだよっ。可愛いだろ?普通は

と、小さく吹き出す。

――え?俺様可愛い?
――馬鹿か?小鳥の話だ、小鳥のっ。てめえはただの芋野郎だろうが。

と、ツ~ンとそっぽを向くその様子は意外に可愛いと思った。

こんな可愛い子分がいても、やっぱりあの太眉のボサ髪っ子がいいのか~と、プロイセンは隣に突っ伏している男に視線を落とす。

それを自分に対する問いかけだと思ったのか、スペインは突っ伏したままぼそぼそと

――プーちゃんなんて可愛ないわ。かわええっていうのはあの子みたいなんを言うんや。ちっちゃい頃からなんも変わらんクルクル丸い目に金色のまつ毛がクルンってしてて、ほっぺなんかもうなんやのあれ?すべすべぷにぷにバラ色で、もう成人済みとか嘘やわ。

――あ~…うん、確かにあいつは肌綺麗だよな~。子どもみてえなキメの細かさで…
――プーちゃん…あの子やらしい目で見んといてっ?!殺すで?!
――え?ええっ??!俺様別に性的な事とか言ってねえじゃんよっ!!
――プーちゃんが言うとなんかやらしいわ。
――ひでえっ!!
一応変なハイテンションも異常な沈み込みもなくなって、なんとなくいつもの調子に近づいてきたように見えるスペインに、ロマーノが少し安堵したような目になる。

そう言えばこいつも兄貴だったよなぁ…と、そんなロマーノの様子にプロイセンはふと思った。



こうして酒癖がもともと良いとは思えないスペインが、少し普通じゃない精神状態から始まった飲み会にしては、思ったより和やかに時間が過ぎていったが、丁度0時を少し回ったあたりで、

「あ、ここにいたんだ~」
と、その空気をぶち壊しにする声が降ってきた。

そろって呆然と振り返る3人。

「なに?なんかあった?あ、もしかして麗しいお兄さんの噂でもしてた?」

あまりにいつもどおりに言って、プロイセンの隣に座ってバーテンに酒を注文するフランス。

その衝撃から最初に立ち直ったのはプロイセンだった。

「お前…アーサーの事どうしたんだよ?」
一応外なので人名を使うくらいの理性はまだ残っている。
それでも動揺を隠せない声音に、フランスはコテンと首をかしげて

「ん~、ホテルの部屋じゃない?
一緒に来るとも言わなかったし、0時過ぎた時点でお兄さん置いてきちゃったからわかんない。」
「…置いてきたって…お前……」
色々先を想像して青くなるプロイセンに、フランスはプスっと吹き出した。

「あ~、もしかしてプーちゃんまでアレ信じた?
てっきりプーちゃんはエイプリル・フールだって気付いてるんだと思ってたんだけど、信じちゃってたんだ~。」

ケラケラ笑うフランスにロマーノとプロイセンは血の気を失い、カウンターに突っ伏してたスペインがモソっと身を起こすのに、二人共ビクっとすくみあがった。

「自分…幸せにするってアレ嘘やったん?」
掠れた声で問うスペインの目が尋常ではない光を放っているのにプロイセンの向こうに座っているフランスは気づかないまま、やっぱり笑って顔の前で手を振る。

「ありえないでしょ~。お兄さんと坊ちゃんよ?
なんで麗しの世界のお兄さんが金色毛虫ちゃんと…」

というフランスの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

ガッシャ~~ン!!!!と殺気に思わず飛び退いたプロイセンの横を通り抜けて駆け寄ったスペインの手がフランスを殴り倒したからだ。

「ふざけんなやっ!!!親分なんでこんなとこで飲んどったと思っとるんやっ!!!
あの子がどんな気持ちで自分に告白したんか、愛の国とか言うとるくせに全然わかっとらんのかっ!!!」

それだけ叫ぶとスペインは上着をひったくって、酒場から駆け出していく。

殴り倒されて数メートルはふっ飛ばされたフランスはポカ~ンだ。


「え?何?なんなの??」

殴られた拍子に切れた唇の端の血をハンカチで拭いながらも、怒るよりもうひたすら驚くフランスをプロイセンが助け起こして、慌てて駆け寄ってきた店員に、騒がして悪かったと、多めのチップを渡し、少し奥まったテーブル席に移動した。
 








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