青い大地の果てにあるものGA_2_極東コンビ到着_1

そして二日後。

極東支部のジャスティス2人は、すでに朝から本部入りをしているらしい。

夜には彼らの歓迎会が行われるとのことだ。

今日は空気を読んでいるというわけではないだろうがイヴィルも現れず、基地中がその歓迎会の支度でバタバタとしている。

そんな浮かれた空気もバイルシュミット兄弟には関係ない。

弟のルートもだがギルベルトも、やはり鍛練ルームに引き籠ってひたすら鍛練で汗を流していた。


そんな風に軽装で鍛練をしていると、何故かスケッチブックを持った女性陣が来てギラギラした目でペンを動かしていたりするのだが、それも毎度の事なので見ないふりをする事にしている。

なんのためとか考え始めると恐ろしくて夜も眠れなくなりそうだからだ。


基地内で女性は数少ないため、そうやって追いかけられるギルベルト達をフリーダムやブレインの男性陣が羨ましそうな目で見てくる事も多々あるのだが、それなら代わってやる、いや、代わって下さいと土下座をしたい衝動に駆られるのもまた日常である。


女性というものに夢を持っていないかと言うとそういうわけではないのだが、日々、

『…き、筋肉っ……』、『…萌え……』、『も、もう少しシャツを……』

などぶつぶつ言いながら血走った目で見られていると、もう小説の中だけで良いか……という気分にもなってくる。

物語の中にでてくるような、露出した肌を見て顔を赤らめたり、可愛らしくヌイグルミを抱きしめたり、白い指先でレースを編んだりなどという女性は、おそらくこの世に存在はしないのだ…と、諦めの境地に達する今日この頃だ。



そうして夕方まではひたすら汗を流し、その日は歓迎会のため早くあがってシャワーを浴びる。

そして黒パンとブルストで簡単な夕食。

もちろん歓迎会には料理が出るが、ロヴィーノから極東組のフォローにまわれと依頼が来ている時点で、ゆっくり食べられないだろうという判断からだ。


こうして準備万端ということで、着替え。
シンプルな黒のタキシードを身にまとい、普段降ろしている前髪はオールバックに。

迎える側としては早めに会場入りしていた方が良いだろうと、大急ぎで広間に向かった。



開始予定時刻30分前なのだが、もうだいぶ人が集まっている。

特に女性陣。
遠目に見ている分には色とりどりのドレスが目に楽しい。

それでも見つかってまた色々追いかけられるのも厄介なので、ギルベルトは目立たぬようにソッとバルコニーに避難した。

そうして中の様子が分かる程度の位置でバルコニーにおいてあるテーブルに軽く身をもたせかけて時を待つ。


が、その時だ。
薄桃色の物体が視界の先を横切った。

なんだ?と何の気なしにそちらに視線を向けると、なんとも可愛らしい淡いピンク色の儀礼服を着た少年…いや、色合いからすると男装を楽しむ少女なのだろうか?

反対側を向いているため顔は見えない。

月でも見ているのかとも思ったが、その華奢な手がオズオズとバルコニーの柵にかけられるにいたって、何故かはわからないが会場から逃走しようとしているらしいと理解した。


(あ…でも.ここ2階なんだが…大丈夫か?)

攻撃特化型ジャスティスのギルベルトやエリザは身体能力も並外れていて、飛び降りるどころか二階くらいなら逆に飛び乗る事もできる。

だが、目の前の小さな影はそういう能力があるようには見えない。

それを裏付けるように、下への足場を探すようにその頭がキョロキョロ周りを見回しているのが見える。


(おいおい...落ちるなよ?)

ついつい気になってハラハラしながら見守っているギルベルトの目の前で、人影は身軽な様子で柵を乗り越えたが、儀礼服の金具が何かに引っかかったらしい。

足を滑らせて転落した。


「チッ!」

ギルベルトは反射的に駆けだすと柵を乗り越えて、小さな悲鳴と共に落下した人影を追う。

しかし心配は無用だったらしい。
相手は空中で猫のようにクルリと体勢を変え、ちゃんと足から地面に着地する。


だが人が見ていたと言うのは想定外だったのだろう。

ギルベルトが

「大丈夫か?」
と声をかけるとびっくりしたように飛び退った。


手を胸元にやったまま硬直する相手。
しかし固まっているのはギルベルトも同じだ。

はっきりとその顔を見た瞬間、思わず息をのんだ。

透けるように真っ白な肌…
長い睫に縁取られた淡い淡いグリーンの瞳が驚いたようにギルベルトを見上げている。

目が離せない。

まるで怯えた子猫のような印象のなんとも可愛らしい容貌の相手に何か形容しがたい感情が自分の中からわきでてくるのを感じてギルベルトはしばらくそのまま立ちすくんだ。

脳内でカランカランと天国の鐘が鳴る。

凝視しているうちにだんだん朱に染まる少女の真っ白な頬。
恥ずかしげに伏し目がちになっていく大きな目。


これは…これは、まさか来た?

俺様の天使キタ――(゚∀゚)――!!


「お姫さん、立てるか?」
と、声をかけつつ、ギルベルトはそっと地面にしゃがんだままの相手に手を差し出す。

その動きに怯えたように身をすくめる姿がまさに姫っ!

そう、これだよ、これっ!

決してギラギラした目で人を舐めまわすように見たり、フライパンで殴り返してきたりしないっ!

そうだ俺様の周りの女がおかしかっただけで、本来女ってのはこういうもんだよなっ!


一気にテンションがあがったところで、ギルベルトは

「驚かせてごめんな」

と謝罪したあと、自らの身分を明かして安心してもらおうと胸元に手をやりかけて…そして気づいた。


…殺気っ?!!

前方から感じる殺意に、思わずその少女を背に庇い、

「お姫さん、俺様の後ろから離れるなよ?!」

と、声をかけると、胸元に手をやり、


――熱情、威厳、そして勇気を体現せよ…ピジョンブラッドソード、モディフィケーション!

と、ペンダントを武器化する。
いつものように手にしっくりと収まる紅い剣。


「隠れてねえで出てこい」

と、前方に向かって声をかけるが、動きがないのに焦れて、気合いをこめて前方に向けてブン!!と思い切り剣を振るう。

すると剣圧で木々と一緒に吹き飛ばされる面々。

地面に転がるその姿には見覚えがある。
フリーダムの制服だ。

「…極東支部の…フリーダムだな?
てめえら、基地内で襲撃とか良い度胸じゃねえか。
これ…上に知れたら命ねえぞ。
俺様が身元特定したくなる前に引いておけ…」

襟元についているバッジは極東支部を示すEastの文字入り。

何故こんなお姫様を襲おうと思ったのかはわからないが、とりあえず弱者を相手に多勢に無勢など男として許される所業ではない。

脅しで引かなければ本気で殺るつもりで威嚇すると、男達は互いに顔を見合わせてバラバラっと逃げて行く。

そうして相手が完全に去るのを確認。
ギルベルトは改めて後ろを振り返った。


「もう大丈夫だからな」

と、ぽか~んと呆けているお姫様に笑いかけると、相手はふるふると震えながら涙目で叫んだ。

「お前…何やってんだよ、馬鹿ぁ!!」
「へ?」
「せっかく他人巻き込まないようにって思って……」

助けていきなり罵られたわけだが、ぽろぽろ涙を零す様子を見ると、可愛らしくて怒る気にもならない…


…ってか、壮絶に慰めたい気分になってきたんだが……

と、ギルベルトは思い…そして実行する。


「あー、なんだかわかんないけど、ごめんな?
でも俺様、お姫さんが1人で危ない目に遭うんなら巻き込まれてえって思うから、その巻き込んじゃいけない他人にカウントしないでいいぜ?」

よしよし…と、その黄色い小さな頭を撫でると、やっぱり泣きながら

「…姫じゃねえ…男だ…。
この格好は…桜が…互いのイメージの色を着ようって強引に……」

へ??

桜…うん、桜って言えばあれだよな?
ギルベルトは思う。

桜と言えば………

「もしかして、お前がアーサー・カークランド?!!!」

思い切りびっくりして言うと、目の前の少女…ではなく、少年は、

「もしかしなくてもアーサー・カークランドだっ!
…お前は……その剣…ギルベルト・バイルシュミットだな?」

と、あまりに可愛らしい涙目で睨んでくる。


うそ…だろ?

ジャスティスの中でも攻撃力は随一の魔術師なはずなんだけど…それがこんな可愛いお姫さん??

あまりに意外すぎてびっくりだが、まあいい。
それならそれで、この子を守る大義名分があるというものだ。

少女じゃなかったのは残念と言えば残念だが……うん、やっぱりこんな可愛い反応する子が女なわけねえか……と、今までの認識から思っておく。

そう、やっぱり女と言うのはもっとギラギラと迫ってくるいきものなのだ。


「それで合点がいったわ。
あいつらはいわゆる本部転属で離れる前のお礼まいりってやつか」

まあこんな可愛い子猫ちゃん相手に大人げないと思いつつ言うと、目の前でアーサーはこっくり頷く。


そして

「わかったらもういいだろ。
俺もジャスティスで1人であれくらい撃退できんだから、行けよ」
と、プイッとそっぽを向く。


その様子が本当に懐いてくれない野生の子猫のようで可愛すぎて、ギルベルトは

「子猫ちゃん、か~わいいぜ」
と、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「ちょ、放せっ!!放せえぇぇ!!!!」

腕の中でわたわたとアーサーが暴れるが、そこは戦闘特化ジャスティスの力を振り払えるはずもなく、しばらくして疲れたのか諦めて大人しくなる。


「俺様は攻撃特化のジャスティスだからな。
自分で言うのもなんだけど馬鹿力だし?
ブレイン本部長の話だとこれからお姫さんとコンビ組む事になるらしいから、諦めて守られてくれ」

ケセセっと笑うとギルベルトはそう言って黄色い頭にちゅっと口づけを落として、その小さな身体を横抱きに抱きあげて、さきほど飛び降りたバルコニーに向かって跳躍した。


そしてその行動に

「…え?」
と目を丸くする腕の中の小さな姫君に笑いかける。


「で?お姫さんがダメなら子猫ちゃんとでも呼べば良いのか?」
「男に子猫ちゃんとか馬鹿じゃね」

「ん~、じゃ、タマ?」
「はぁ?」

「…極東のあたりの猫のポピュラーな名前だって聞いたけど?」
「………」

「…タマちゃん?」
「…それならお前はポチだぞ?
ポピュラーな犬の名前だ」

してやったりとばかりに得意げに見あげてくる表情がありえないほど可愛いと思う。


「特別な名前で呼び合うってなんか良いなっ。
じゃ、それでいいぜ?
よろしくな、タマ」

「はぁあ~~??」

唖然とするアーサーの身体を降ろしてくしゃりとその頭を撫でた後、しっかりと腰に手を回し、

「じゃ、そう言う事で、馬鹿が襲って来ても場が混乱する前に俺様がきっちり伸すから安心して楽しく飯でも食おうぜ」

と、抵抗する間も与えず、ギルベルトは広間へと彼を伴って戻って行った。

これから楽しい日々が始まりそうだと、そんな事を思いながら…。




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