天使な悪魔_2章_6

拾い天使


道路の真ん中で止まっているバスはどう見ても普通の状況じゃなかった。
盛大に窓ガラスが割れ、ところどころに血が飛び散っている。

シン…とした中で聞こえる嗚咽。

一応銃を構えながら用心深くバスの車内に入ったギルベルトの視界に入ったのは、壮絶な撃ち合いの跡だった。

生存者はおそらくその聞き覚えのある泣き声の持ち主だけ。

そろそろと通路を進んで座席の合間を覗きこむと、座席の間の床にへたり込む後ろ姿。
とりあえずそこで安堵の息を吐き出して、ギルベルトは銃を下ろした。

「おい…俺様が敵だったらどうすんだよ。お前撃たれてるぞ。」

ギルベルトがそう声をかけると、アントーニョは泣きながら首を横に振った。

「俺が死ねば良かったんや…。天使…死なせてもうた…」

エリート軍人には珍しくアントーニョは感情の起伏がひどく激しい。

心惹かれたモノに傾ける愛情はほとんど自己犠牲をも伴うくらい深いし、嫌う時の嫌いっぷりと来たら、これもまた大抵のことでは動じないギルベルトをしても恐怖を感じさせるくらい凄まじい。

そんなアントーニョはその時々で一番心惹かれるモノを天使と称する癖がある。
おそらく敬虔なクリスチャンだった事もあるのだろう。

その対象は猫だったり小鳥だったりリスだったりと様々だが、どれも馬鹿馬鹿しいほどの愛情を注いで、そして先立たれた時には後追いでもしそうな勢いで悲しむ。

実際…それらのペット――アントーニョいわくペットではなく同居者らしいが――が亡くなったあと1ヶ月ほどは、いつもアントーニョは全く使い物にならなくなる。

最初の1週間は食事も喉を通らずひたすら泣き続け、次の1週間はダウンして点滴生活。
その後1週間で少し治まってきて、最後の1週間がリハビリ期間だ。

それが過ぎてもふとした瞬間に愛したモノ達が次々亡くなっていく中で自分だけ生きながらえている事に自己嫌悪を感じてひどく落ち込む事がある。

ペットのような動物ですらそれだ。
これが相手が人間になったらどうなるのだろうと心秘かに心配していたのだが、それが現実になったらしい。

「…撃たれたのか?」
と声をかけると、アントーニョは黙って首を横に振った。

「ちょっと見せてみろ」
と、そこでアントーニョの背中越しにその腕に抱え込まれた相手を伺う。

年の頃は14~5歳と言ったところか。

手を伸ばして触れてみて、まだ温かい事に気づく。

「おい!俺様の車に運べっ!まだ間に合うかもしんねえぞ!」

ギルベルトの言葉に

「ほんまっ?!!」
と、アントーニョは速攻で飛び起き、かけ出していく。

「ちょ、俺様置いてくなっ!!」
ギルベルトはその後を追って“華麗な俺様と小鳥さん号”に戻った。




結論から言うと、蘇生以前にアントーニョの天使は微弱だがまだ息があった。

早急に応急処置をして、事情を聞く。
ホワイトアースの入院患者ということで、少年の荷物から医療手帳を取り出し確認。

正直面倒なもんを拾ったな…と、ギルベルトは小さく息を吐きだした。


「フェリちゃん、運転頼むわ。」
とギルベルトが言うと、フェリシアーノはホッとしたようにうなづく。

そんなに俺様の運転が嫌なのかよ…と、ギルベルトが口を尖らせると、フェリシアーノはそれについては曖昧に笑って明言をさけた。

ともあれ…アントーニョにはいくつか説明をした上で、ある程度の覚悟と決断をさせなければならないだろう…。

医療手帳に書かれた少年の病は、10年前…ローマに引き取られたばかりの頃、ギルベルトの実兄が亡くなる原因になって、実兄と仲の良かったフェリシアーノを大泣きさせたものと丁度同じものだった。

手術は必須だが、術後2年の生存率は5割…それを超えれば生存率はグッと上がるが、肉体労働とか激しい運動とか無理はできない。

まず…生存出来ない5割に入った時の覚悟が必要だ。
日常的に側にいた場合、非常にキツイ思いをする。

それなら距離を置いたほうが良いと正直思うのだが、アントーニョの性格上すでに無理だろう。

「…俺が側に居ない方がええって言うのはわかるんや。
俺かて最初は休暇終わったら距離置こうって思うとったから…」

ギルベルトがその話をした時にアントーニョの口から出たのは意外にもそんな言葉だった。

「たぶん…離れとったらめっちゃ気になるし辛いと思う。
けど、あの子を巻き込んでまうくらいやったら、俺が辛いほうがええと思うとったんや」

そう言ってぎゅっとこぶしを握りしめてうつむいた。

「せやけど…もう手遅れや。強襲あった時に俺は二人ほど敵逃がしてしもうたんや。
せやからアーティーが俺の関係者やって敵に認識されてもうてる。
一人にしたら殺されてまう。」

そう言われてしまうともう仕方ない。
自分達が全力でフォローを入れるしかないだろう。

「あ~、もうわかった。5割にかけっか。その代わりあとで泣くなよ。」
くしゃくしゃっと頭をかいて言うギルベルトに
「それは無理や。アーティーになんかあったら親分泣くどころか死んでまうわ」
とアントーニョは即答する。

あ~、これは面倒な事になった…マジ面倒な事に…と思いつつも、そこで幼馴染を見限れるはずもなく、ギルベルトはもう一人の悪友にもメールを送っておく。

どうやら正攻法で叩くのが難しいと判断した敵が最近はスパイを送り込んだりすることにも力を入れていると聞く中、身体的にも精神的にも負担をかけたら即死んでしまいかねない天使様をお守りしなければならなくなったのだ。

協力者は一人でも多いほうがいい。

こうして守ることになったその天使様自身が他でもない敵のスパイなのだということは、さすがにギルベルトも思っても見なかった。

まあ…スパイと言うにはあまりに未熟で、きちんと役割を果たせるかというとおおいに疑問をいだかずには居られない一般人初心者…浮世離れという意味で言うならば天使というのもあながち間違いじゃない相手ではあるのだが……。



Before <<<  >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿