ストーカーとは何をされるかではなく誰にされるかである_2

「ギルちゃん…それ犯罪やん。ストーカーやん。
YesロリショタNoタッチ言う言葉知らんの?」

今まではフレックスタイムで通勤をラッシュからずらして出社していたギルベルトが最近早い時間から出社している事を不思議に思ったらしい幼馴染のアントーニョに事情を説明したら、ストーカー認定された。

ペドと噂されるお前にだけは言われたくない…と言うと、
「あ、じゃあペドじゃないお兄さんが言うなら良いの?
いくら1人楽しすぎるからって未成年は犯罪よ?」
と、もう一人の幼馴染フランシスに言われて、お前は存在自体が公然わいせつだと言い返す。
ギルベルト・バイルシュミット、あれから1カ月後の昼休みの事である。


だって仕方ないじゃないか…と思う。

ギルベルトがあの日、どう見てもフラフラとして倒れそうになっている学生を電車から助けおろしたのは人道的に正しい。
これは誰もが認めるところだと思う。

そして…体調がよろしくなさそうなお子さんが元気になったのか、翌日気にしてしまうのは、少し神経質かもしれないが、おかしくはないだろう。

ということで、あの日の翌日、ギルベルトはどうしても心配になって前日と同じ早めの時間に家を出て電車に乗ったのだが、相変わらず混んでいる電車で他より少し低い金色の頭を見つけて近寄っていけば、白い頬が真っ赤に染まっている。

やっぱりまだ体調が悪いのか…とさらに近づいてみて、ギルベルトは絶句した。
後ろに立つ中年のサラリーマンぽい男が、いきなりアーサーのシャツのボタンを外して手を入れて、もう片方の手をアーサーの股間に伸ばしている。

さすがに少年と言えど男が男に痴漢されているというのは恥ずかしくて言えずに耐えていたらしい。

「おい、痴漢は犯罪だぞ」
と、片手でその手をひねりあげ、片手でアーサーをガードしながら次の駅で下車。
痴漢男を駅員に突き出した。

そうして諸々を終えて前日に続いての遅刻ついでに色々聞いてみれば、貧血も痴漢も初めての事じゃないと知って、もう心配で放っておけなくなった。

おせっかいがすぎて怪しまれる事も覚悟の上で、どうせ自分は遠くから来ているので通り道だしと、アーサーの家の最寄り駅を聞いて駅の改札で待ち合わせて、学校の最寄り駅まで送ることを申し出て今に至る。

さらに土曜日はギルベルトは休みなので半日は学校のあるアーサーを最寄駅まで送って行って、そのまま駅の中にあるスタバで時間を潰し、帰りは待ち合わせて帰るようになった。

別にやましい気持ちはない。
やましい気持ちなんて持つには幼く見えすぎる。
小さくてふわふわしてて、そのくせ妙に気真面目で遠慮がち。
そんな子どもが困っていたら助けてやりたくなるのが人情というか…兄気質というものである。



最初に気分が悪くなったのを助けてやった日…どうして良いか分からないと言った感じにぎゅっと目を瞑って小さな手を握り締めてフルフル震えているのを見て、まるで捨てられた子猫のようだと思った。

そう…例えるなら見つけたは良いが連れ帰れない子猫の世話をしているような感覚である。
完全に身の内に入れてしまう事はできないのがわかっていても放っておけない。

だって笑うのだ。
何かしてやるたび、甘えて良いのかもわからず戸惑いながら、甘えて良いのだと教えてやると、ふにゃりとそれでも少し遠慮がちに笑うのである。
そんなところが可愛らしくて、甘やかしてやりたくなる。

ただそれだけだ。
本当にただそれだけなのだ。


ギルベルトの周りによくいる女性陣のように、色々やってもらうのが当たり前ではない。
何かやってやるたび、(え?やってもらっていいの?)と言わんばかりに動揺するのが本当に人慣れない子猫のようで可愛いし、たいしたことではないような事でも頼んでくる際にすごくおずおずと遠慮がちな所も可愛い。

更に言うなら…おそらく色々に自信がないのだろう。
自己評価がとても低く無防備なところがあって、しばしば自分の愛らしさを自覚せずにおかしな輩に絡まれるので、放っておけない。
よく今まで無事だったなと思うほどに、よく変質者やら痴漢やらに遭う。

先週もたまたま同じ映画を見たがっていたということで、それなら一緒にと誘ったのだが、ギルベルトがチケットを買いに行っているほんのわずかな間に、知らない男に腕を掴まれて連れて行かれそうになって、慌てて列を抜けて保護しに行って、結局一緒に列に並ぶ事になったくらいだ。

まあギルベルトがどこか放っておけないと思うのとは違う方向性のベクトルでアーサーは色々を惹きつけてしまうのだろう。

え?ギルベルトもそうではないか?
いやいや、自分は違う…とギルベルトは断言できる。
なぜならギルベルトに対してはアーサーも心を許してくれているし、無理に付きまとっているわけではない。
その証拠に、なんと今週末の連休にはアーサーの自宅にお呼ばれしている。
なんでも今までのお礼にお茶に招きたいそうだ。

もしギルベルトを悪友達が言うようにストーカーと認識しているなら、自分から自宅に招くような事はしないだろう。
アーサーが受け入れている以上、自分は決して怪しい者ではないはずだ。

だからギルベルトは断じてストーカーではないのである。





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