温泉旅行殺人事件アンアサ 前編_1

夏休みが始まってすぐに始めたオンラインゲームでは殺人事件に巻き込まれ、それが終わってすぐ悪友の頼みを断り切れず熾烈な女の戦いに巻き込まれたどころか、また殺人事件にまで巻き込まれたなんて、本当に今年の夏は散々だった。
それでもまだなんとか片がついて、フランとトーニョの悪友達、そして新しく出来た“親友”アーサーの4人で初詣にこれただけマシなのだろうか…。

ギルベルト・バイルシュミット、通称ギルは、ありえない行列を並んだ末やっと辿り着いた神社の賽銭箱に、彼にしては奮発して500円硬貨を投げ込みながら、
(これ以上おかしな事件に巻き込まれません様に)
と、これまた彼にしては随分真剣にお祈りをした。
もう切実な願いである。
隣ではフランも気合いの入った祈りを捧げている所を見ると、なんだか同じ事を祈ってる気がしてくる。

一方でトーニョとアーサーはサラっとお祈りをすませたらしく、さっさとおみくじなど引いている。
「やった!大吉や♪」
とヒラヒラとおみくじをかざすトーニョに、
「末吉…」
と、ちゃっちゃとそれを枝に結びつけるアーサー。
その後ギルとフランも同じくおみくじを引く。
「う~ん…末吉だ~」
というフラン。最後にギルはゲゲっ!と声をあげてのけぞった。
「ありねえっ!凶ってなんだ?凶って!」
滅多に出ないらしい凶をよりによって初詣に引くあたりが…なかなか波乱な幕開けである。

その後は広いのでフランの家へ向かう。

「いらっしゃ~い♪」
出迎えるのはフランシスの母、フランソワーズ。
世界的に有名なデザイナーで、なかなかの美女である。

「あら、今日はアーサーちゃんも一緒なのね♪じゃ、ママはりきっちゃおうっと♪」
玄関を入るなり、ぎゅ~っとアーサーを抱きしめるフランソワーズから、この時ばかりは悪友3人一致団結でアーサーを取り戻す。
「母さん、はりきらないでいいから、向こう行ってて」
と、言う息子に、フランソワーズは
「シス、冷た~い。」
と口をとがらせながらも、お茶いれてくるわね、と、キッチンへ消えていく。

「さて、うるさいのが行ったところで…」
と、リビングに皆を促すフランに
「うるさいのって…優しい良いお母さんじゃないか」
と、アーサーが言う。
「アーサー…騙されてるから…。あの人はホントに気にいった人間には無駄に愛想が良いけど節操無いし…」
「「フランの親だよな(やんな)」」
と、そこで悪友二人がすかさず突っ込みを入れた。
「近親憎悪ってやつか」
ケセセっと笑うギル。
「やめてよ、一緒にするの」
「節操ないのもフランやん」
「一緒にされたら…嬉しくないのか?フランソワーズさん若いし美人だしお菓子とか上手だし…俺はあんなお母さんいたら自慢だと思う」
ソファに座ってそういうアーサーの後からまた腕が伸びてくる。

「も~ぅ!アーサーちゃん、可愛い♪いっそのことうちの子になっちゃいなさいなっ。」
いつのまにかお茶のワゴンを押したフランソワーズが後ろに立っていた。
「はい♪これはアーサーちゃんにサービス♪」
と差し出されるフルーツをたっぷり飾り付けたプリン。
「ありがとうございます」
と、それを目にしたとたんぽわわ~っとほころぶアーサーの表情に、
「シスもこのくらい可愛い反応してくれるといいんだけどね」
と、フランソワーズは笑みを浮かべると、全員に紅茶を配り始めた。

「あーちゃん、お菓子に釣られんといて。」
「今度俺様がうまいクーヘン焼いてやるよ。」
「アーサーはうちのお菓子好きだもんね~。ホントうちに来ればいいよ。一緒に住もう?」
とそれぞれ言うが、とうのアーサーは幸せそうにプリンを頬張っていて聞いていない。

そんな4人に紅茶とお茶菓子のクッキーを配り終えると、フランソワーズはふとテーブルの上のパンフレットの束に目をとめた。
「あら、あなた達旅行に行くの?」
「連れてかないからねっ!」
と、その言葉に即答するフランシス。
そんな息子に苦笑しつつフランソワーズは
「あら、残念。まあ私明日からパリだからどちらにしても無理なんだけど…今から宿って大変じゃない?なんなら知り合いのお宿にお願いしてあげましょうか?」
と、聞いてくる。

今日の初詣の帰りに、突然行きたいなという話が出て集めてきたものだったので、当然間に合いそうになく、半分諦めていたところにその提案は非常にありがたかった。

「ええの?!おばちゃん!!」
とまず身を乗り出していうアントーニョをギルとフランがぱこ~ん!とはたく。
「おばちゃんはまずいって言ってるだろっ。お姉さんと言えっていつも言われてるだろうがっ」
と小声で注意するギルベルトに
「何言うてんのん?フランの母ちゃんやからおばちゃんやろ。お姉ちゃんやないやん。」
と不満げに言うアントーニョの言葉にフランソワーズの頬がひくひくひきつる。

…が、そこでやはり3人放置で

「こんな時期に宿取れるんですか?さすが有名なデザイナーさんなんですね。」
と、そのやりとりをマルっと聞いていないアーサーが心底感心したキラキラした目で見上げるのに
「アーサーちゃんのためならとびきりのお宿用意させてあげるわよ。」
と、にこやかに答えるフランソワーズ。

「そこのおバカさん3人はついでにね」
と、さきほどの失言を忘れてない旨を示す事も忘れない。


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