アーサーと魔法のランプⅩ-世界の愛は君のもの1

とりあえず聞きたい事は最初に聞いておくことにした。

Q:何故自分がアメリカに拉致されている事を知った?
A:スペインから聞いたため。

Q:どうやってアメリカに来た?
A:過去、イタリアも祖父のローマにランプをもらっていて、それにイギリスが拉致されている場所との空間を開いてもらえるよう頼んだ。

と、そこまで聞いた時、イギリスの脳裏に浮かんだ疑問…

「なんでそんな事に使ったんだよ?
一度使えば100年使えないんだろ?
もっと有意義な事に使えよ。」

イタリアとは元々それほど親しかったわけではない…というか、どちらかと言えば避けられていたはずで、たまたま自分がランプで女になって何故かスコットランドに怒られていた、そんな時に仕事で居合わせただけの関係だ。

その程度の相手のために100年にたった一度しか使えない貴重な魔法を使うなんて馬鹿げている…。

自分の事ではあるのだが思わず主張すると、イタリアはにこにこと柔和な笑みを浮かべながら言った。

「だって…大好きな相手を助ける以上に大切な事なんてないでしょう?」
「だ…だいすきって……」
何故??動揺しつつも真っ赤になるイギリスに、イタリアは
「さっきから俺が言ってたの聞いてたぁ?何度も言ったのに。
俺は・イギリスが・好きなのっ!大好きなんだってばっ!!」
と、ぷくぅっと膨れながら訴える。

「で…でも……」
「あのね、俺イギリスを全然知らなかったと思うんだ。
爺ちゃんには可愛い子だって言われてたのに、色々あってすっかり忘れてたのっ。」
イタリアはそう言ってイギリスの両手をとる。

「綺麗な刺繍やレース編みを作れる繊細な手。
料理は…正直こわいけど、でもジャムと紅茶は美味しいよね♪
俺が美味しいお菓子をいっぱい作って、イギリスが淹れた紅茶で食べればきっとすごぉく幸せな気分になれるよっ。
可愛いモノ、綺麗なモノが好きなのは俺と同じ。一緒に色々見て回れるね。
恥ずかしがり屋さんで好意や善意を上手く伝えられないのだって、俺は兄ちゃんで慣れてるから全然平気だよ♪
ねえ、俺達絶対に上手くやっていけると思う。
俺優しくするよ?すごく優しくする。
だから俺を選んで?」

珍しく笑みの消えた真剣な顔のイタリアに、イギリスは少し戸惑う。

「…え…選ぶって……なんだよ。」
「恋人に♪」
ニコリとそこで天使のような微笑みを浮かべられて、イギリスは赤くなってうつむいて絶句する。

「ねえ…俺じゃだめ?俺の事嫌い?」
可愛くて優しくてみんなに好かれている人気者のイタリア。
イギリスだって嫌いなわけはない。
…でも……

「…お前好きな奴…いっぱいいるだろ?何も嫌われ者の俺じゃなくたって…
お前は選んでって言ったけど、俺には選ぶような相手いねえし……」
選び放題なのはお前だろ?…と、イギリスが言うと、イタリアはキョトンと目を丸くした。

「ねえ…ほんとに?これまでの流れで本当にそう思ってるの?」
「ほんとにも何も事実だ…。」
「…俺の兄ちゃんは…本来面倒が嫌いな人で、万人に愛想が良い訳じゃないし親切な方でもない。身内や大事な人には実はすごく優しい人だけどね。
プロイセンは今ドイツの仕事手伝っててすごく忙しいはずだけど、南イタリアから日本まで足を運んで……フランス兄ちゃんは仕事サボり過ぎて軟禁状態だったらしいのにそれに同行。
日本も今景気良くないし忙しいけど色々準備して…アメリカに至っては気持ちが先行しすぎて暴走しちゃって盗聴、誘拐なんてしちゃったわけなんだけど……。
うん、まあいいや。ライバルは居ない方がいいしっ。
じゃ、聞かせて?
俺が恋人じゃ…いや?」

ツラツラと並び立てた挙句、結局元の質問に戻るイタリアに、イギリスは心底戸惑う。
イタリアといると楽しいし安らぐ。
いつ傷付けられるんだろうと構えなくてもいいし、いつも心地よい空間を提供してくれる。

でも…魔法の効力は100年間だ…。

「100年たったら…俺は男に戻るんだぞ?」

100年続かない…もしくは100年で終了する前提の話なんだろうか…。
永遠を望むのは確かに贅沢かもしれない…が、別れる前提で付き合いを始められるほど器用な性格じゃない…。

だから敢えてそれを指摘すると、イタリアの綺麗な指先が頬に伸びてきて、プライベートではひどく緩くなるという自覚のある涙腺からこぼれ落ちた涙をソッとすくうと、ごめんね…と、優しく言った。

ああ…やっぱり一時的な楽しみを一緒にと誘われているんだな…と、ツキンと痛む胸元にぎゅっと握りしめたこぶしを押し付けると、やさしい手がそれを取り、チュッと口付ける。

「あのね、俺はずるいんだ。
今のイギリスは一人じゃ男に戻れなくて、慣れない女の子の状態だと心細いでしょ?
だからね、独り占めしたい。
イギリスが俺に頼って、俺だけを好きになってくれたらいいなって思ってる。
だって俺はイギリスが好きだから。
でもね、イギリスが俺を好きになってくれたあとなら、男の姿でも女の姿でもいいんだっ。
だって、優しい光色の髪に同じ色の長いまつ毛、それに縁取られた光にゆれる春の新緑みたいに綺麗なグリーンの瞳も新雪みたいな真っ白な肌も変わるわけではないし、奇跡みたいに繊細な手芸作品を生み出す手も傷つきやすくて柔らかい心も…イギリスを形作る全部が俺は好きだから…。
俺は弱いから守り切ってあげる事はできないかもしれないけど、一緒に逃げてそれでも傷ついちゃったらいっぱいいっぱいの幸せをかき集めて癒してあげる。
嫌な事以上の楽しいこと、嬉しい事でイギリスを埋めてあげるよ。
二人は永遠に楽しく幸せに暮らしましたとさって…まるでお伽話の結末のように、二人でいつまでもずっと一緒に幸せになろう?
俺を選んで?俺を好きになって?ね?イギリス」

ふわっと抱きしめられると、本当に甘く幸せな気分になる。

「…幸せは…砂糖菓子みたいに溶けてなくなるから……」
ぽろぽろと止まらない涙の伝うイギリスの頬に、イタリアは
「なくならないよ。」
と、ちゅっと口付ける。

「大丈夫。溶けちゃったら俺がまたいっぱいいっぱい集めてあげる。
幸せを怖がらないで、Il mio bella di caro(愛しい恋人)」

ほら、あ~ん♪と、そこでまた口に運ばれる甘い甘いホワイトチョコレート。

なくなったら…また作ってあげるね♪
俺、俺が作ったものを美味しそうに食べてくれるイギリスの顔をみているのも大好きなんだ。

と、お菓子の国の王子様は甘い甘い微笑みとともにそう言った。


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