アーサーと魔法のランプⅪ-コンキスタドールと愛の国1

自分を好きだという男のベッドの上で押し倒されている状態で、なおキョトンとしているイギリス。

不思議そうに見上げるその様子はいつもより少し子供っぽい無防備な感じで可愛い。
めっちゃ可愛いのだが、これだけ全く警戒されないというのもどうしたものか…。

見かけどおり本当に初心過ぎて現状把握ができていないのか、こんなあどけない顔で実はこんなことは日常なのか…。

後者なら問題ないが、前者なのに後者だと思い込んで事を進めれば取り返しのつかない事になる。

「…嫌やったら…抵抗したって?」
仕方なしに様子見がてら、チュッと耳元にくちづけてそう言うと、そこでどうやらようやく状況を把握したらしい。

人間の顔色というのはここまで急激に変化するのかと感心するくらいぱぁああ~っと頬を真っ赤に染めて、ワタワタと抵抗を始めた。

まあ…女の子になっているので、抵抗と言えるほどの力もないわけだが…。

「自分なぁ…」
ああ、やっぱりそうだったか…とスペインがため息をつきながらも身を起こすと、イギリスはピタっと暴れるのをやめ、またきょとんとした目でスペインを見上げた。

(ああ…もう自分可愛すぎやねんっ!せめてまた襲われかけないために身くらい起こしっ。
そこで上目遣いってホンマは襲って欲しいんかいっ?!)

クシャクシャっとやけくそ気味に頭を掻くと、スペインは仕方なしに自分の方が距離を取ろうとベッドから片足を下ろした。

クン!
そこで引っ張られるシャツ。
……おい………

「その……怒ってるの…か?」

思わず振り返ると、潤んだ大きな新緑色の瞳でオズオズと見上げてくる。

ありえんっ!!!
スペインはズルリとそのままベッドからずり落ちて、床に突っ伏した。

「……もしかして……お姫さんは親分の理性試してはる?」
「へ?」

悪魔…というものが本当に存在するとしたら、それは異教徒でも海賊時代のめちゃくちゃ強かった時代のイギリスでもなく…まさに今目の前にいるこの可愛いお姫さんだと言い切れる。

その気もないのになんでそんな男心を鷲掴みにするような可愛い顔で可愛い仕草で可愛い事を言うのだ。

あかん…これはあかんわ。
と、スペインは今日何度か思った事をまた思う。

本当にこの船上にいるうちに自分が抱え込んでしまわないと、こんなものを外に出した日には絶対に男どもが群れをなして奪おうと大挙してくる。

「お姫さん…」
スペインは気を取り直してイギリスの方を向き直った。

「…お姫さんじゃないけど……なんだ?」
ベッドに腰を掛けて足をプラプラさせながら見下ろすイギリス。

(これは…もうラテン男の本気を見せたるしかないなぁ…)

そう心の中でぶつやきながら、スペインはその真っ白な綺麗な足をソッと手に取り、指先にちゅっと口付けた。

ひゃっと驚いた声をあげてイギリスは足を引っ込めようとするが、そこは自慢の握力でしっかり握ったまま離さない。

「な…なんだよ……」
若干怯えの入った大きなペリドットで見おろされて、ぞくりと主に腰のあたりに広がるモノがある。

握ったままの小さく白い足先は小さく震え、まるでこれから肉食獣に喰われようとしている小さなウサギを連想させる。

ああ…かわええ…うまそうやなぁ……。

湧き上がる凶暴な感覚を無理やり押さえつけると、スペインは床に膝まずいてニッコリとイギリスを見上げた。

「なあ…知っとる?
つま先へのキスは崇拝…。」

そう言いつつ、視線を落として、そのピンク色の爪先に愛おしげにちゅっと口付ける。

「自分が全部親分のモンになってくれるなら、まるでお姫さんにかしずく騎士みたいに大事に大事にお守りしたる。
で――」

と、今度は足の甲に唇を押し当てて、そのままつ~っと細いふくらはぎまで移動する。
ビクッビクッっと足が震えるのは当然知らぬふりだ。

「足の甲は隷属…。
脛は――服従や。
まあ……もう覚えてへんくらい昔から心は服従させられてるようなもんやけどな。
――ずっと自分に囚われて……ずっと許しを与えられたい思うとった。
自分を唯一愛してええって言う許しを……な。
――…なあ、お願いや…与えたって?お姫さん…――」

意外に自分も表情によっては保護欲をそそるらしいと、自分でも自覚がある。
母性本能をくすぐる…しかし男臭さのある…決して子どもに対するそれではないらしい、言うなれば大人の男が自分にだけ見せる弱さは可愛いと女性達には大好評だった、何かを乞うような切なげな目で見上げる。

イギリスはこう見えてアメリカやカナダをまるで母親のような愛情を持って育てた経験のある、縋られれば弱い性格だという事を知った上での行動であることは言うまでもない。

「ちっちゃい自分の肖像画をもろうた頃から、ずっと手の内で可愛がって守ってやりたいって思うとったんやけどな。」

少しイギリスが固くなってきた時点で、その緊張をほぐすように、鼻梁は愛玩な、と、ほんわり笑って身を少し乗り出すと、スペインは今度はイギリスの小さな鼻先に口付けた。

「上司の結婚で久々に会うた時、あんま綺麗に成長してはったんで、大人の愛し方をしてまいたくなってん。
――可愛がって好きって言うだけや足りひん。」

そう言って呆然とする小さな唇に己の唇を重ね存分にその柔らかい感触を味わったあと、そこから首筋へ。

「唇は…愛情。――首筋は………執着…。
――誰にも渡しとうない…俺だけのモンにしたいんや――。」

震える細い身体。
ここで青く変わるようなら今はまだ引く時だと思う。
しかし目の前にはピンク色に染まる肌。

スペインはそこで耳元に口付けて熱い吐息と共に誘惑の言葉を流し込んだ。

「――ええって言うて……?
…めっちゃ大事にする。
ずぅっと大事に守って可愛がったるから…。
………ええ?」

耳を甘噛みしながらうながすと、――…あっ……――と小さな吐息。

「…大事にする…。ええやろ?
―――うなづいたって?……」

言葉にするより引き出しやすいであろうと、そう言うと、イギリスは瞳を潤ませて迷うように逡巡したが、さらに、もう一度、

――ええって…言うて……?――
…と囁くようにやんわり詰め寄ると、ひどく戸惑ったようにおずおずと、それでも結局コクリとうなづいた。



…ようやく…手に入れた……
実に1000年越しの彼岸を達成して、スペインはソッとその薔薇の香りのする小さな身体を抱きしめた。


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