アーサーと魔法のランプIII-とある男兄弟の長男の話1

下は弟二人。

それに不満だったわけではないが、どうせ頼りになる“お兄ちゃん”である事を求められるなら、よりか弱く可愛らしい女の子が良い…と、思わないでもなかった。

そんな時にもう一人下に兄弟が生まれた気配を感じて、期待してしまったのは仕方のない事だろう。

そんなに物のある時代でもなかったから与えてやれるものは少なかったが、一番綺麗に咲いている花の苗を持って行ってそれで新しい兄弟の土地を満たしてやろうと、スコットランドは薔薇の花の苗を手に、末っ子の土地を訪れた。


国の気配を頼りに初めて足を踏み入れた土地を辿って行くと、きゃっきゃと可愛らしい笑い声がする。

そ~っと影から伺うと花畑で耳の長い小動物――のちにそれがウサギと言う名でローマがイングランドへ贈ったものだと知ったが――と戯れる幼児。
ぴょんぴょん飛び跳ねた光色の髪。
ふくふくとしたバラ色の頬。
瞳は木漏れ日に揺れる新緑色で、なんとも愛らしい。

全体的には人形のように可愛らしくて少女と言われれば納得できそうだが、唯一広い額に生える紳士の証、太い眉が子供が男の子であることを証明している。

が、正直もう男だとか女だとかどうでも良い気がした。

まだ柔らかそうなあの小さな手を伸ばしてきたら…自分自身の身を守ることさえまだおぼつかない身ではあるが力の限り守ってやろう…そう決意してスコットランドは一歩そちらに踏み出しかけたが、幼児はその時何かを見つけたようにクルリと別の方向に走りだした。



「ろ~まぁ、だっこしろよぉ~!」
とてとてと危なっかしい足取りで走り寄って、その小さな手を伸ばした対象はやはり国。
それもかなりの大国であることは、その男が背負う気配で感じ取れた。

「お~。良い子にしてたか、イングランド」

茶色の髪に浅黒い肌のガッシリとした体格の男が子供に向かって両手を広げると、子供はその手にぶつかるように飛びつく。

ひょいっと軽々と子供を抱き上げるしっかりとした大きな手。
スコットランドは自分の手に視線を落とした。

弟達よりは若干大きいものの、まだまだ子供の小さな手…。
あんなふうに弟を軽々と抱き上げる事も、守ってやる事もできない力のない手だ…。

小さな弟は自分達と違って可愛らしくて、それゆえ保護してくれる強い大人をみつけられたらしい。

おそらく…自分達といるよりは、一人ぼっちの可愛らしい子供を保護してやろうという大国の手に委ねたほうが幸せになれるだろう…。

スコットランドは苗をその場に放り出して黙って反転すると自国へ向かってかけ出した。
頬が冷たい気がするのはきっと気のせいだ。
胸が痛い気がするのは走りすぎたからに違いない。



「兄ちゃん、どうだった?男だった?女だった?」

自国では二人の弟達が待っていた。

上の弟は様子を見に行った兄に待ちきれないようにそう聞いてきたが、聡い下の弟は当然連れて帰ってくるだろうと思っていた新しい兄弟を連れずに頬に涙のあとを残して戻った長兄に何かを感じ取ったのだろう、黙って次男の後頭部をどついて黙らせた。

そんな二人を前にスコットランドは考えた。

あの子に頼るべき兄弟がいると知られたら、もうあの大国は保護してくれなくなるかもしれない…。
子どもにとってそれはとても不幸な事だし、なによりまだ不安定で小さいあの子どもは大国の保護を失えば消えてしまうかもしれない…。

「お前達…」
それは悲しい決意だった。

「俺達には3人以外に兄弟はいない。
3人以外で俺達の国に足を踏み入れる国は侵略者だ。
死なない程度に矢を撃って威嚇して追い払え。」

突然の長兄の言葉に戸惑いを隠せない弟二人。

それでも、何故?と言いかけた次男は今度は三男に足払いをかけられ、その言葉を紡ぐこと無く、兄を転ばして言葉を封じた三男はただ、

「わかったよ。兄さん」
と、何も聞かずに了承してうなづいた。




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