捕獲作戦 - 完了_1

排除


「イギリスっ!君いったいどこに行ってたんだいっ?!
日本に釣りとか聞いたけど、湖の釣りはまだ季節じゃないし、海までは遠いし、まさかそこらの川で今までやってたの?!
ホントこんなとこまで来てバカじゃないかい?!
しかたないから明日は場所を考えるって事がわからない君のためにヒーローの俺が観光に付き合ってあげるんだぞっ!」

宿に戻って広間に入るなり、いきなり物凄い勢いで駆け寄ってきたアメリカは、イギリスの腕をつかんで、そうまくし立てた。

素直じゃなくても…それが例え優しい言葉じゃなくても、以前なら構ってくれて誘ってくれて嬉しいと感じたその言葉が、その時イギリスにはとてつもなく恐ろしくものに感じられた。

自分を傷つけるために言っている悪意に満ちた言葉…。
心が無意識に防御体制をとり始める。

「別につきあってくれなくてもいい。ありがとう。気持ちだけもらっておく。
腕を離してくれないか?アメリカ」

刺激しないように…しかし拒絶の意思はきっぱり伝えなければ…。
萎えそうな心を奮い起こして、なるべく感情的にならないようにそう言うイギリスに、アメリカはぽか~んとほうけた。

イギリスが…あの自分に甘いイギリスが自分の誘いを断った?
アメリカにとってありえない…超自然現象のようなものだった。

それはアメリカならずとも不思議な光景で、他国も一斉に広間の入り口に立ちすくむ元兄弟達に視線を向ける。

こうして誰しもが驚きを隠せずに硬直している中、いち早く我に返ったのはフランスだった。

イギリスがいつもと違う…その事実をいち早く察知したところは、さすがに腐れ縁として永い時を共にはしていない。
そして…不確実性にかけるよりは、より確実なほうへ…という発想の転換もまた、伊達に古参の国として生き残ってきたわけではないといったところか。

「スペイン、お疲れ~。坊ちゃんのお守りは俺がかわるから、酒でも飲んできなよ。お前昨日もゆっくりできなかったしさ。」
フランスはにこやかに歩を進め、旧友の方へと声をかけた。

そしてポン!と軽くスペインの肩を叩くと、さりげなくスペインをそのままイタリア達のほうへとうながす。

そうしておいて、フランスは寄り添うように立っていたスペインとイギリスの距離を開けようとするかのように、二人の間にさりげなく身を滑り込ませた

ふと今まで…そう、昨日の夜からずっと感じていた体温が離れていく気配を感じて、イギリスは妙な心細さとともに喪失感を感じる。

昨日までは本意だろうと不本意だろうと長い生の中で一番身近にいた体温が近づいてきた。
それなのに、たった一日前から覚えた暖かさが消えただけでここまで寒く思うのは何故なのだろうか…。

それを自覚した瞬間…イギリスはクラリと眩暈を感じた。

そして慌てて崩れそうな足に力を入れようとするが、それより先に力強い手がしっかりとイギリスの腕をつかんで、自分のほうへと引き寄せて支える。

皆がその行動に驚く中、スペイン一人当たり前に、
「あかんわ…。やっぱ部屋で食うから悪いけど運んでくれる?」
と、日本に向かって苦笑した。

その言葉でハっと我に返った日本は、
「はい、ではそのように手配します。」
とこくこくうなづくと、パタパタと厨房へと走っていく。

珍しい光景にざわつく国々。
これにもまず気をとりなおしたのはフランスだった。

「あ~、坊ちゃんもしかしてお疲れ?いいよ。じゃ、しかたないし俺が…」
当たり前にそういってイギリスへと手を伸ばす。

しかし驚いたことに伸ばされるフランスの手をパシリと跳ね除けたのは、イギリスではなくスペインだった。

「…?!」
怒りなどの不快感よりも驚きが勝って、フランスは目を丸くする。
そんなフランスの沈黙を埋めるように、スペインが言葉をかぶせた。

「おおきに、ノーセンキューや。
体の調子悪いとこに“しかたなく”とか“本当は嫌やけど”とかさらに心の調子まで悪うなるような事言うて看てくれへんでもかまへんわ。
俺は“心配やから”様子見てたいねん。
やからこれからはイギリスの世話は俺がやるさかい、フランスは好きに過ごしたって。」

ぎゅっとイギリスを抱え込んで言い放つスペインに呆然とするフランス。

「ちょ、待ってよ、何それ?お兄さん別に…」
「言い訳は要らんわっ!」
言い募るフランスの言葉をスペインがまたことさら大声でさえぎった。

「自分ら今までさんざんイギリスに酷いことばっか言うてきたのに、イギリスが他に一緒にいる相手ができて相手にしてもらえへんてなったら、いきなり擦り寄ってくるんか?!
そうまでしてまだ傷つけたいん?!それとも国益が心配か?!
安心し?別にイギリスかて子どもやないんやし、国と個人の関係をごっちゃにすることはないし、俺もさせへんから。
せやからもうこれ以上この子にちょっかい出すのやめてんか?」

「スペイン…お前なに言って…お前だってイギリスには…」
「俺はイギリスの政策や国としての行動に色々言うても、個人の性格について辛気臭いやの垢抜けへんやの嫌われモンやの言うてへんで?
もうええか?イギリス疲れとんねん。休ませてやらな…」

「よくないよっ、ねえ、スペインなんでいきなりそんな言い方してるわけ?それじゃ俺がまるで…」

さすがにムッとした口調で詰め寄るフランスに、
「イギリスが疲れとるって言うても、自分の言い訳のほうが大事いう事か?」
とスペインが冷笑した。

単純で鈍感で明るい…今まで認識してきたスペインという人物像が根底から覆されて、フランスは思わず息を呑んでたちすくむ。

「とりあえず…部屋でゆっくり休んだほうがええわ。親分布団敷いたるから飯くるまで少し寝とき」

その沈黙で話はついたとばかりに、スペインはフランスに向けるのとは全く真逆の…まるで幼子に向けるような慈愛の笑みをイギリスに向けて、そっと広間の外にイギリスをうながした。




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