ギルとアーティのファンの皆様の仰せのままに第二回_1

ギルとアーティのファンの皆様の仰せのままに


「ん?なんだよ、この企画」
マネージャーから手渡されたバラエティ番組の企画書を手に、ギルベルトは秀麗な顔を少ししかめた。

番組は【ギルとアーティのファンの皆様の仰せのままに】
この番組は、文字通り、ギルベルトとアーサーがファンのリクエストを募集して、そのアイディアに沿って何かをするのを撮影するというものだ。
同性の恋人役として出演した映画のおかげで昨今ずいぶんと増えたように見える、腐女子という新たなファン層を中心に女性を主なターゲットとしている。

初回は2人でお好み焼き屋に行って飯を食うというものだった。
互いに眼鏡とウィッグで変装して食事に行ったあの企画は楽しかった。
途中、何故か一般女子と間違われたアーサーがナンパされたのをギルが丁重にお引き取り頂くなどというハプニングはあったものの、ギルもアーサーも楽しんだのは確かである。

そしてその番組の第二弾。
今度の指令はなんだ?と少し楽しみに企画書を覗き込んでみれば
『ギルベルトは変装、アーサーは女装した上で、一般のCPのフリで1日デート』
などというけしからん文字が躍っていた。

企画書を手にチラリと隣のアーサーに視線を落とすと、視線に気づいたアーサーが不思議そうな顔で見あげてくる。

可愛い…。

正直に言おう。
ギルベルト的にはひっじょ~~~うに見たい。
アーサーが可愛らしい格好をするのはとても見たい。

だって仕方ないじゃないか。
あえて誤解を恐れずに言えば、ギルベルトは異性愛者である。
別に男だからアーサーを好きになったわけではなく、好きになったアーサーが男だった、それだけなのだ。
どこか悲しげにも見える幼げな顔が好きだ。
成人していると思えないほど華奢な体格も好きだ。
自分が旨い物をたくさん食べさせて少し太らせてやりたいと思う。
やや後ろ向きだが繊細な性格も、道具を与えてやれば驚くほど美麗な刺繍やレース編みなどの作品を作り出すようになった器用な手先も…そして口ほどに物を言う澄んだ大きなグリーンアイズを何より愛している。

アーサーを構成する全てが好きだ。
ボロを着ていようと正装をしていようとアーサーならなんでも好きなわけだが、それでも…繰り返しになるがギルベルトは元々異性愛者なのだ。
ずっとイメージしてきた恋愛と言うのは、可愛い格好をした恋人を男として大事に大事にお守りする図なのだ。

だから、もちろんアーサーじゃない異性よりはアーサーの方が絶対に何があっても良いのは確かなのだが、少女のような格好をしたアーサーを見たい欲もあれば、そんなアーサーをエスコートして出かけたい欲もある。

それが似合わないものならもちろんそうも思わないのだが、男の格好と同じくらいそれが似合ってしまうわけなのだから、させたくないはずがない。
だって前回の撮影の時など、男物の服を着ていても女の子と間違われてナンパされるほど可愛かったのだ。
女の子に見えるなら、女の子の服を着ていて可愛くないわけがない。

…と、そう思うわけなのだが、それはギルベルトの方の都合で一方的な願望でしかないのもまた分かっている。

アーサーだってどんなに可愛くても男なのだ。
女装なんて屈辱的だろう。
これが自分だったらと考えると、確かに女装して外に出ろとか言われたら嫌だ。

自分の願望とアーサーの気持ち…どちらを優先すべきかなど、考えるまでもない。

だからこその
「さすがにありえなくね?」
だった。


自分の願望を表に出さないように…不機嫌に見えるように…意識して眉を寄せて、パンパンと企画書を指ではじきながらマネージャーを睨みつければ、横からひょいっとアーサーが企画書を覗き込む。
企画書の内容を見てくるりと丸い目がきょとんとさらに丸く見開かれた。

そして言う……
――何か…ダメなのか?
「はぁ?」
思わず声が漏れた。

もうそれはそれは何の意図も企みもなく、本当に驚きがそのままに声となって出る。

「…やっぱり…ギルは恥ずかしい…か?」
「あーちょっと待て待てっ!!」
おずおずと言われてギルベルトはいったんストップをかけた。
頭の回転は早い方だと自他ともに認めているのだが、全く状況についていけてない。

「なんで俺様が恥ずかしいんだ?」

自意識が地の底までも低いギルベルトの可愛い恋人は、ギルベルトが理解できない事を言いだす時はたいていとんでもない事を考えている。
非常に下方修正された理解を元に……

――……女装した俺を連れて歩くのが?
おお~~い!!!!
と、ギルベルトは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

ありえないっ!ありえないだろう。
いや、確かに嬉し恥ずかしという事ならあるが……

「嫌なはずないだろっ!!!」
と、即復帰。
立ち上がってアーサーに詰めよった。

「俺様がアルト連れて歩きたくないなんて事、一時だってあるわけねえだろっ!
ましてや可愛く着飾ったアルトだぞ?!
俺様の服着てたってナンパ男が寄ってきちまう可愛いアルトが真っ白なワンピースとか着てみろっ!
どこにいたって眼福すぎるだろうがっ!!
それをエスコートできんのが嫌って男がどこにいんだよっ!!」

一気にまくしたてたら、アーサーがまたびっくり眼で固まった。

「…真っ白いワンピース……」
「…なるほど、白いワンピースが好みですか…」
と、アーサー、次いでマネージャーの呟き。

「い、いや、気にするとこそこじゃねえだろっ!」
と、焦るギル。

「いくつかカタログ取り寄せますね~」
と、そそくさと退散するマネージャーを呼びとめようとするギルだが、そこでツイ…とアーサーがそのギルの服の裾をひっぱった。

「…アルト?」
「ギルは…真っ白なワンピースだったら嫌じゃないのか?」

素朴な疑問…というような風に聞かれて、ギルベルトの方が戸惑った。

「いや…あの……」
「…?
ワンピースと言うのは単に好みの問題で、着るのが俺だとやっぱり嫌か?」

しょん…と肩を落とされて、また動揺する。
考えがまとまらず、どう言うべきかわからず、脳内色々な言葉がクルクル回るが、結局ギルベルトは素直に思いのままを口にした。

「俺様としては…な、すっげえみてえんだけど……」
「…え?」
「いや、俺様個人としては可愛い格好したアルトとデートなんて嬉しくないはずねえだろ。
でも逆考えるとな…」
「逆?」
「そそ、自分が女装で街出ろって言われると嫌じゃん」
「……これって…女装すんの俺だろ?」
「いや、だからな……」

全く分かりませんと言うような顔で見あげられてギルベルトはため息をついた。
自分が嫌なことを恋人に強要するような男に思われていたのだろうか…と、ギルベルトはらしくもなく一瞬悲観的になるが、たぶんまた斜め上の方向に誤解されているのだろうと思いなおして、言いなおした。

「だから…俺様だったらやるの嫌だから、アルトだって女装で街歩くのなんて嫌かと思って反対してみたんだが…」

「…え?」
驚かれたらしい。

いわゆるびっくり眼で見あげられ、――俺様…変な事言ったか?とギルベルトも目を丸くした。

「いや…普通嫌だろ?」
「…?…別に?」
「…嫌じゃねえの?」
「…周りに不快感与えるとかじゃなければ別に良いけど?」

「………」
固まるギルに、アーサーがだって…と上目遣いにみつめてくる。

――そういう格好してた方がギルが甘やかしやすくね?

……っ!!!!!
ど~こ~で~そういう物言い覚えてきやがったぁぁ~~!!!!
可愛いけどっ!可愛いけど、物申したいっ!!!
ああ、でも可愛いからいいか。うん、いいやっ。いいことにするっ!
…結局ギルベルトは欲望のままに考える事を止め、なりゆきにまかせる事にした。


「そもそも舞台の上で女装したり男装したりする文化があるわけだし…する側からすればそれが仕事の衣装だと思えば何にも問題ない気がするんだ…」

「…ああ、まあ…歌舞伎や宝塚とかな…あのあたりはまあ……」

「だから…どちらかと言うと似合わないかもしれない女装の人間を、それが仕事だと堂々と言えない状況で連れ歩かないといけないギルの方がメンタル的に大変な気がするんだけど?」

「……あー、似合うからそこは平気。
俺様の好みを全て凝縮したら間違いなく白いワンピース着たアルトになるから」

「…っ!!…………ばかぁ……」

真顔で言うと返ってくる赤面と愛らしい呟き。
それにつられてギルベルトも赤くなる。
こうして第二回のお題は確定したのである。



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