フェイク!9章_2

告白


いつもの朝と同じく、スペインは朝の紅茶と朝食を持って寝室へと向かう。

もしイギリスがスペインの嘘を知って怒ったなら当分見ることのできなくなるであろう無防備な寝顔を見貯めておこうと、スペインは朝食のトレイをベッド脇のテーブルに置き、眠っているイギリスの顔をのぞき込んだ。

初めてフランスの家で小さなイギリスに会った時には、この浅黒い肌が珍しかったのだろうか…ひどく警戒した様子で距離を取られた。

その後お菓子を手土産に何度も通って何度も笑みを見せるたび、イギリスの距離は少しずつ縮まっていって、最終的に膝の上で差し出す菓子を食べてくれるようになった時の感動は今でも忘れられない。

その後しばらく会えなくなって、上司の結婚を機にまた近くで顔を合わせるようになった時には、子どもの頃の事を照れくさく思いながらも親愛の情を持って接してきてくれた。

イギリスの上司がスペインの王女と強引に離婚した時に申し訳なさそうに目を潤ませていたのは、演技ではないと思う。
あの頃はおそらくイギリスは無条件にスペインを好いていてくれたのだ。

その後また今度は逆にイギリスの女王とスペインの王が結婚をして、スペイン側が孤独な女王の気持ちを利用してイギリスを負けるとわかっている代理戦争に追い立てて捨て石にするまでは……。

某海戦やその直前の海賊行為は、おそらく警戒心の強い、人慣れない子どもに好意を持たせて、結果それを裏切る行為を行った事に対する復讐だったのだろうとスペインは思っている。

それから近年までずっと避けられていた。

好きな相手に避けられるのはキツイ。
思い出すだけでキリキリと胃が痛む。

またアレを繰り返すのかと思うと、もうこのまま唯一など望まないで家族のままでいいのでは?という考えが脳裏をよぎる。

それでもやっぱり唯一でありたくて、そのためには始まりの嘘を隠したまま全てを求めるわけには行かないのだ。


「…嫌わんといて……」

安らかな寝顔に向かってそう零すと、スペインはソッとイギリスの滑らかな頬に手を伸ばした。
ポツリと頬を涙が伝う。

その時…

「…何かあったのか?」
伸ばした手が掴まれて、眠っているとばかり思っていたイギリスの瞼が開く。
下から心配そうに見上げるペリドットにスペインは息を飲んだ。

まだ心の準備が出来ていない。

「誰かに何か言われたのか?
それとも…嫌な夢でも見たのか?」

そのまま半身を起こしたイギリスに引き寄せられ、抱きしめられる。

「なあ…なんで泣いてんだよ…」
優しい…甘やかすような声にますます涙が止まらない。

「泣くなよぉ…」
と困ったような声が可愛らしくて、スペインは思わずぎゅっと自分からもイギリスを抱きしめた。

紅茶と薔薇の香り…
イギリスの香りがする。

これを失うのは絶対に嫌だ。

「あのな…親分、アーティーの事めっちゃ好きやねん…」
グリグリと丸い黄色い頭に頬をすり寄せながら、スペインは言った。

「ただな、アーティーと一緒におりたかったんや。避けられんのはツラいわ…」
ポロポロと泣きながら言うスペインに、イギリスは少し考えて、そして言った。

「避けてたのはお前だろ?……あの海戦がきっかけか?」

へ?
スペインは目を丸くした。

少し身体を離して顔を覗きこむと、丸い大きなグリーンアイがスペインの目をまっすぐ見ている。

「騙してたから…会ってからずっと優しくしてもらったのに騙してたから怒ったんだろ?」
「…なんでそうなるねん」

ありえない…と、スペインは断言する。

「初めて会うた時からめっちゃ可愛えと思っとった。
最初人見知りされて…だんだん慣れて来てくれて…上司の結婚でフランス通さずに側におれるようになった時に俺がどんなに喜んだかわからへんやろ。」

ペリドットの瞳に吸い込まれるように近づいていくと、イギリスはびっくりしたように目を大きく見開いて、次にぎゅっと目をつぶった。

少し震える唇に己のそれを重ねたい衝動に駆られたが、それはまだダメだとスペインは自重して、イギリスの鼻梁にちゅっとキスをする。

「あの時…もう少し国同士の蜜月が続いとったら、結婚申し込むつもりやってん…。」
そのまま耳元に唇を寄せて、さらにそう続けると、イギリスの白い耳が真っ赤に染まった。

「国がどうのやなくて…アーティーを手に入れたいって思っとった。
身も心もあますことなく…誰にも一欠片もやらんと、全部まるごと手に入れて、俺もまるごとアーティーにやりたかった…。
出会ってからずっと持て余しとった情熱を全部注いで、愛情でがんじがらめにして溺れさせて、そのペリドットに俺以外映らんようにしたかってん。」

上司がやらかしてもうて、おじゃんになってもうたけどな…と、そこで耳元から唇を離してコツンと額を押し付けて苦笑すると、もういっぱいいっぱいと言った感じの動揺で揺れる大きな瞳が視界に広がった。

そんなところも可愛らしくて、愛しさで胸が熱くなる。

「堪忍な?どうしてもアーティーが欲しかってん。
世界に卑怯者て蔑まれても、神の道に背いても構わへんかった。
それよりどうしてもアーティーが欲しくて、親分嘘ついてもうた…。
堪忍…。嘘ついてでもアーティーを手に入れたかったんや。
上司の知り合いの娘さんに求婚されてなんかないねん。
アメリカがアーティーに求婚するつもりやったの知って、アーティーは受けへんやろなって思うて、その理由にできるってなったら一緒になってくれるんやないかって思うて、嘘ついてもうた。
ホンマ堪忍な。殴っても蹴っても罵ってもかまへんから、離れて行かんといて…」

必死に掻き抱くスペインにイギリスは抱きしめられたまま硬直していたが、しばらくして、トン!と軽くスペインの胸板を推す。

ああ…ダメだったのか…と絶望的な気分になりながらも、この状況で無理強いをしたら本当に完全に終わりだ…と、スペインは大人しく抱きしめる力を緩めた。

「…やっぱ…怒っとるよな?」
どんな顔も可愛いと思うものの、今だけはその大好きな可愛らしい顔を正面から見ることは怖くてできない。

スペインがうつむいてつぶやくと、

「当たり前だ。ばかぁ!」
と、言葉が返ってくる。
その声音が意外に突き放したものではなく、拗ねたような響きに聞こえるのは、都合の良い思い込みなのだろうか…。

「…アーティー?」

おそるおそるスペインが顔をあげると、プクゥっと頬を膨らませて大きなで上目遣いに見つめられて、スペインはその破壊力に爆発しそうになった。

なんや、それっ。可愛すぎやろっ!!!
親分萌え殺す気かいなっ、この子はっ!!!!
そんなスペインの内心の絶叫をよそに、イギリスは、
「怒ってるんだからなっ」
と、怒っているにしては可愛すぎる様子で宣言した。

「だから…」
「だから?」
「一生賭けて償えよっ!逃げたりしたら…妖精さんに言ってティディベアに変えて抱き枕にするぞっ!!」

鼻血が出るかと思った…。
なんなんだ、その可愛すぎる脅しは…。

もう我慢の限界だった。

「可愛えアーティーに毎晩抱きついてもらえるのは、それはそれで幸せやけど…」
そう言いつつスペインはアーサーの腕を掴んで引き寄せる。

「どうせなら抱きつくだけやなくて、もっと別の事もしたいやんな?」

ギラリと欲情をたぎらせるスペインに、イギリスは自分の発言の失敗に気づくが、身を引こうにも掴まれている腕はびくともせず、ますます引き寄せられて、スペインの腕にすっぽりと抱き寄せられた。

「…す…スペイン?」
若干怯えの含んだ声で問いかけてくるイギリスに、スペインはニッコリと笑みを浮かべる。

「火…いったんつけてもうたら、燃え尽きるまで止まらんのがラテン男なんやで?」
情熱目一杯注がれる覚悟しいや?という言葉に、まさか朝から?と半信半疑で迷っていると、色を含んだエメラルドの瞳が近づいてきて、激しく燃え上がるような口づけに、イギリスは翻弄されるしかなかった。

こうして…ラテン男の情熱に流されて気を失うまで何度も奔流に飲み込まれたイギリスが目を覚ましたのは、翌日の朝だった。



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