フェイク!6章_2

偽装の戸惑い


「家族会議?」
スペインがその話を出した瞬間、丁寧に淹れた紅茶の入ったカップをスペインに手渡そうとしていたイギリスの手がピタっと止まった。

不安と戸惑いに揺れるグリーンの瞳が可愛らしくてスペインは小さく笑みを漏らすと、その止まったままの手からカップを受け取って自分の前のテーブルに置き、そのテーブルをグルリと回り込んで、手からカップが消えてもまだ硬直しているその手をつかんで軽く自分の方へと引き寄せた。

軽い体はポスンとスペインの腕の中に収まる。
いっそ心地よいくらいぴったりと、あつらえたように腕に丁度良い大きさだとスペインは満足げにそのままぎゅ~っと抱きしめる。

「大丈夫やで?家族会議なんて言うてるけど、そんな大したモンちゃうねん。
おおかたロマから話を聞いたベルギーがロマだけずるい言うて会いに来ることになっただけやと思うわ。
オランダはベルギーのお供な。」

ゆっくりと頭をなでる大きく温かな手の感触も、すでに慣れた…とイギリスは思う。

たった1週間ちょっとの自分ですら安心感を与えられるその手で育てられた子ども達はきっと自分のようにそれを損なう可能性のある者が元親のもとにいるのが心配なのだろう…。

なんとなく悲しくも心細い気分になってジワリと目元に浮かぶ涙に、
「また悪いほうに考えとるん?」
と、スペインは苦笑して雫がたまり始めた目尻にちゅっと口付けを落とした。

「困るのは…お前のほうだぞ?
家族の反対押し切った上、実は騙してたとかバレたらどうするんだ?」

そのまま抱き寄せられるに任せてスペインの肩口に顔をうずめるイギリスに、スペインはゆったりとした口調で

「別にあいつらも反対なんてしてへんし、親分も騙してなんかおらへんよ~。
単に一旦期限区切った結婚やいうだけで、一緒におる間はアーティーは親分の大事な嫁さんやし、大切に思っとるよ?」
というと、宥めるようにぽんぽんと背中を軽く叩く。

そこで
「終わりを決めてるってだけで…普通じゃねえだろ…ばかぁ…」
と、拗ねたように言うイギリスに、スペインは、結婚自体がフェイクだったはずが、いつのまにか期限が来るまではフェイクじゃないと本質的な部分ですりかえられている事にイギリスが気づいてない事に内心ほくそえんだ。

突発事項に弱いイギリスだ。
色々起こると変化に思考がついていかないのでは?というスペインの読みは見事に当たったわけで…周りが動けば動くほど、少しずつ矛盾を消化して、偽装を真実にすり替える事もしていけそうだ。

ここであと一歩進めておくか…と、スペインはさらに言葉を重ねた。
「別にその時期がきたかて終わりにせんでもええやん?
それまではお互い結婚生活に馴染めるかどうかのお試し期間みたいなもんで、そこでどうしてもあかんかったら解消するってだけで、それすぎても一緒にいたかったらおったらええねん。」

「お試し…期間?」
「ん。その間にゆっくり距離を縮めていけばええよ。
アーティーは急激に色々変わるの得意やないしな。
急に籍入れました、はい、今日から夫婦らしくしたって言うても大変やろ?
せやから100年くらいでゆっくり夫婦になったらええねん」

そこまで言ってスペインは、というわけでな、と、イギリスに考える間を与えずに話を進める。

「別に子分達に気ぃ使う事ないねんで?ロマとかてちゃんと仲良うしとったやん。
ベルギーはもっと人当たりええ子やし、オランダは……まあ、あれは親分にも愛想ええ奴やないから、気にせんとき。」

それぞれの名前を出したことで、イギリスの思考は各々の子分達の方へと向かったようだ。
とりあえずすり替えの第一歩はなんとかクリアしたらしい。

あとは…これを繰り返して、元は偽装だったという事実をイギリスの脳内から消し去って既成事実を作ってしまおう…。

(それには…まあ色々起こった方がええやんな。家族会議でも世界会議でもちょっかいかけてきてくれる奴は大歓迎や)

とりあえずは早々に家族会議とやらを開くことにするか…と、スペインは早急にまた休みを取る手筈を整えることにした。



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