馬鹿っぷるのクリスマス-混ぜるな!危険!_1

元保護国達の茶話会


「君はさ、実はスペインを取られて寂しいんじゃないのかいっ?
そんな君のためにヒーローが一肌脱いであげてもいいんだぞっ」

いきなり家まで押しかけられた挙句の第一声がそれだった。
押しかけられたロマーノはもう呆然とするしかない。

「No Thank you、結構だ。」
玄関先でそう言ってドアを閉めようとしたら、

「遠慮しなくていいんだぞっ。俺はヒーローだからねっ。困っている皆の味方さ☆」
と、キラリ~ン☆とまるで歯磨き粉のコマーシャルのような真っ白な歯を見せて爽やかに笑う超大国。

ああ、どうしてこう自分の周りには爽やかさを装った粘着質な性格のやつが集まるんだろう…。

ロマーノはもう一人、今話題に上がっている元宗主国の、やはり“太陽のような”と称される笑顔の裏の性格を思い出して、ため息をついた。

もう…こうなったら話を聞いてやるまで帰らないであろう事は経験上身にしみている。

ここは適当にあしらって早々に帰ってもらおう…そう思って、ロマーノは仕方なしに某超大国を居間に通したのだった。






ぽとん、ぽとん、と、落とされる角砂糖実に10個。

それでも
「君のとこのコーヒーって苦いんだぞっ」
と、アメリカが文句を言いつつ口に含む液体は、すでにエスプレッソではないと思う。

見ているだけで気持ち悪くなりそうなので、ロマーノはその恐ろしい液体から目を逸らしつつ、

「で?アメリカはイギリスを取られて寂しいんだな?」
と、単刀直入に聞いてみた。

本当にKYなのか演技なのかはもう考えないことにしているが、少なくともスペインは遠まわしに聞いても話が通じないので、その感覚で聞いてみたら

「違うんだぞっ!俺は別にイギリスの事なんてなんとも思ってないんだぞっ!
君がスペインを取られて寂しいんじゃないかと思って来てあげたんじゃないかっ!
変な事言わないでくれないかいっ!!」
と、ポコポコ怒られた。

どうやらこちらは同じKYでも素直でない分少々面倒な気がする。

いや、どう考えても俺のために動くような事しねえだろ…と内心思うが、それを口にしたらどうなるかがわからないほどロマーノの方はKYではないのが悲しいところだ。

「あ~、そういう意味ならな、帰ってくれて大丈夫だぞ。
俺はそういう意味ではスペインに興味ねえし、あいつが恋人の一人でも作ってくれればかえって付き合いやすくていい。」

「ヒーローに隠し事は…」
「してねえよっ」

不満気に言うアメリカの言葉を速攻で遮って、ロマーノは続けた。

「あのな、正直俺はあいつの恋人になりたいとか思った事はねえ。
全力で拒否するっ!」

「………君達……実は仲悪かったりするのかい?」

ロマーノのあまりにきっぱりした物言いに、アメリカは訪ねて来た時の勢いはどこへやら、ぽか~んと呆けたあと、若干沈黙。

それから珍しく気遣わしげな視線をロマーノに向けた。

それはそうだろう…。
元宗主国と保護国という関係では、スペインとロマーノはおそらくイギリスとカナダに勝るとも劣らないくらいの仲睦まじさではないだろうか…。

家族愛…と言えばそれまでだが、そこまで嫌そうに全力で拒否しなくても…あれだけ大事に大事に育ててきたスペインがさすがに可哀想じゃないか…と、普段の自分の言動は棚に上げて、超大国は思った。

「あ~、仲は悪くねえぞ?」
「じゃあ家族愛とか言うやつかい?」
「それもあるけど…あいつの一番にはなりたくねえ」

そう言ってロマーノは遠くを見る。

「なんでだい?彼は身内を大事にするんじゃないのかい?」

自分が大切だと思っている人間の1番になりたくない…そんな考えはアメリカには理解できなかった。

自分はイギリスの一番になりたくなかった時期はない。

こんな寒い時期にわざわざヨーロッパまで足を運んでいるのだって、昔はいつでもアメリカが一番大事で特別だと言っていたくせに、ちゃっちゃと別の一番を作ってしまった薄情な…だが、アメリカにとっては一番大事な最愛の人物の一番をもう一度取り戻すためなのだ。

そんなアメリカに次のロマーノの言葉は一縷の希望を与えた

「あいつは…家族には良いけど恋人は無理だ。」
「……?
彼は確かに無神経なところがあるけど、人当たりは良いしモテるんじゃないのかい?」

お前が無神経という言葉を使うな…思わずツッコミをいれたくなるロマーノ。

しかしまあ文字通り“無神経”…いわゆるKYなだけで悪気はないのだろう。
流しておくことにする。

「あのな…あいつはお前と一緒だ。
一見こだわらなさそうに見えて…実際に大抵の事はどうでも良いと考えてんだけど、執着しだすともうめっちゃ粘着質で独占欲の塊になる。
ただの家族でも里帰りすんのにこっそり後付けるとか、ちょっと引くレベルで過保護なんだぞ。
恋人なんて言った日にゃあ、一日24時間監視してんじゃねえ?
それこそフランスの野郎が言ってたけど、最近イギリス様にちょっかいかけたり泣かしたりした日には、何故か次の瞬間スペインから脅しの電話がかかってきて、数時間以内にスペインが飛んでくんだってよ。
イギリス様もフランスも当然言ってねえのに、なんで知ってんだ?って考えると怖ええよ。」

「それは…まるでストーカーのようだよね。怖いね。引くよねっ!
まあ何を勘違いされたのかわからないけど、俺は違うけどねっ。」

と、言葉とは裏腹に嬉しそうに言うアメリカ。

これも遠く北米大陸からイギリスチェックしてるお前が言うなとツッコミを入れたいところだが黙っておく。

あと一息で帰ってもらえそうだ。

「…というわけでだな、俺はむしろあいつに恋人の一人でも出来てくれりゃあ安心してスペイン観光にでも何でも行けるようになるわけだ。
俺に対する過干渉も減るだろうしな。
これでようやく『ロマにはまだ早いんちゃう?!』とかいちいちチェックされる事なく恋人の一人でも作れるし…。」

「君の都合なんかどうでもいいんだぞっ!その、ストーカー部分についてkwsk…」
とロマーノの言葉を遮って身を乗り出すアメリカ。

『スペインを取られて寂しい君のために来てやったんだぞ☆』

という最初の言葉はどこに行ったんだろうか…と思わないでもないが、もう帰ってくれるならどうでもいい。

ロマーノだってようやくオープンに出来る恋人と堂々と一緒に過ごせる初めてのクリスマスのために支度をしたいのだ。

「あ~…そのあたりはな、フランスの野郎に聞いた方が早くねえか?
俺は実害受けてねえし。」

「ああ、そうだねっ!お邪魔したよっ!!」

と、その言葉の途中でもういつものジャケットの上にコートを着つつ立ち上がっているアメリカ。

そのまますごい勢いでドアに向かい、帰っていった。





パタン…とドアが閉まると、キッチンでクリスマスのためのお菓子を焼いていた弟、フェリシアーノが顔を出した。

アメリカに美味しそうだから味見したいなどと言われたらどうしようかと戦々恐々としていたわけだが、帰ってくれてホッとする。

彼の食べる量を考えるとせっかくドイツ兄弟のために用意した諸々の食材をもう一度買いに行かなければならなくなる。

こうして危機が去ったところで、エプロンで手をふきふき出てきたフェリはヴェ~といつもの独特の声を上げながら、コテンと首を傾けた。

「兄ちゃん…良かったの?」
「あ?何が?」
「スペイン兄ちゃんの事あんな風に言って…。
本当にイギリスの事監視しててそれがバレて別れたとかになったらどうすんの?」

そう…去年まではクリスマスはロマーノに引きずられてスペイン宅へ行っていて恋人と過ごせなかったため、フェリシアーノにとっても今年は恋人と過ごせる初めてのクリスマスなのだ。

スペインはもう家族のようなものだから、スペイン宅で過ごすクリスマスもそれはそれで楽しいが、ヴェネチアーノはやはりロマーノとは違って、スペインに育てられたわけではなく、人間に例えるなら近所の優しいお兄さんくらいの感覚だし、それなら恋人と過ごしたい。

それでもクリスマスにスペインを一人寂しく過ごさせるのは忍びなく、でもクリスマスを二人きりで過ごすことで特別な相手とされるのは困る。

そんな気遣いの元、弟を伴って毎年恋人と過ごすのを諦めてスペインに通っていたロマーノもこれが今年最後になるのは嫌なのは同様なはずだ。

そしてそれ以上に、ロマーノはやはりスペインに守られて可愛がられて育って独立しても家族としての情は深く残っているため、スペインの幸せを壊したいとは思っていないだろう。

そんな思いを込めて口にした弟の質問に、兄はニヤリと笑ってみせた。

「お前な、相手は“あの”イギリス様だぞ?
心配しなくてもアメリカの行動はむしろ二人の仲を強固にしてくれるって。
なにせ…二人ともをよく知るギルがアメリカが来たらそう言えって授けてくれた案だしな。
おかしな事になるなんてありえねえよ。
それよりツリーの飾りつけすっぞ。」

「うん♪今年は特に楽しみだね~。俺ルートとクリスマス過ごせる日が来ると思わなかったよっ」

フェリシアーノも楽しげにいうと、ツリーに飾り付けるように焼いたビニールに包んだクリスマス型のクッキーの入ったカゴを持ってくると、兄と一緒に飾り付けはじめた。






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