青い大地の果てにあるもの7章_1

相互理解的和解が生む友情以上の関係?酒場編


(疲れた…)

初めての敵の本部急襲。
余裕などかけらもない。

なのに、現場を受け持つ自分達フリーダムと連携して動くはずの研究機関兼事務方のブレインのトップが不用意に現場に足を運んで怪我をして任務続行不能になったため、機能不全を起こしたブレインのフォローまでするはめになった。

それでも外組ジャスティスが豪州支部を壊滅させた強力なイヴィルを含む一団をたった3人で壊滅させて本部へ向かわせないでくれたため、なんとか乗り切った。

普段はヘラヘラした男だが、アントーニョはやる時はやる男だ…と、ギルベルトは素直に感心&感謝した。


それに引換え…アレはダメだ。
ブレインの副本部長。

まさに祖父の七光りで苦労もせず当たり前に副本部長になったはいいが、ただボ~っとその与えられた役職に甘んじているため、実際に本部長が倒れて代理をしなければとなった時に、ただただオロオロしているしかできない。

ただの甘ちゃんだ。

腹立たしさを押し隠して、忙しい自分自身の仕事をしながらフォローはしたものの、あれがあのまま狸と揶揄されながらもヤリ手ではあるローマ本部長の跡を継いで本部長になると思うと、頭が痛い。

とにかく憂鬱な気分を引きずって、せっかく苦境を乗り切って盛り上がっている部下達の気持ちに水を差したくないため、ギルベルトはお祭り騒ぎのフリーダム本部を抜けて、こっそりと誰も来ないであろう食堂の片隅にひっそりと設置されているセルフサービスのバーに来たわけだが…先客がいた。

…よりによって一番会いたくない人間が……。

ブレイン副本部長、ロヴィーノ・ヴァルガス。
その姿を認めた時に即引き返そうと思ったギルベルトだが、酔いつぶれているらしいロヴィーノの周りにはバラバラと紙が散らばっていて、どうやらそれが設計図らしきものだと気づいた時点で、諦めた。

何故こんなところにばらまいているのかはわからないが、機密なら放置も出来ない。
とりあえず拾い集めて、チラリと目を通す。

(これは…あれか、長距離移動を目的とした乗り物の設計図か……)

少し興味を惹かれて、話を聞こうと取り敢えず食堂からツマミを取ってくると、それと酒のグラスを手にロヴィーノの隣に腰をかけた。

「おい、これ、ジャスティスの現地移動用の乗り物の設計図か?」
カウンターに突っ伏すロヴィーノに設計図を差し出すと、億劫そうに顔を上げたロヴィーノはトロンとした目でギルベルトを見上げた。

今までしっかりと目を合わせた事はなかったが、さぞやぽや~っとお気楽そうな顔をしているのだろうと言うギルベルトが勝手に思い込んでいた想像とは裏腹に、整った顔に随分と憔悴の色を浮かべている。

七光りのお坊ちゃんというよりは、諦観しようとしてしきれない苦悩を抱えた苦労人のようだ…と、なんとなくそんな事を考えていると、薄めの少し乾いた感じの唇から、かすれた声が漏れた。

「本部にジャスティスが集合すっから…移動長距離になるし……今までみてえに本人に運転させるなんて事さしてたら潰れんじゃねえかなんて……ハハッ!
そんなん上もきっと考えてんだよなっ。俺が考えるまでもなくさっ。
移動中くれえ休めるように、ちっちゃくても個室あって、ミニキッチンとリビングくれえあったらいいかな~とか…こんなもん作ってバカみてえっ。
誰も俺の言う事なんか気にしちゃいねえよなっ」

いや…あのローマオヤジそんな細やかな事考えてねえんじゃね?
つか、俺様も目先の忙しさにかまけてて、ジャスティス全員本部集合=現場までの移動距離が異様に長くなる…なんてことすっかり忘れてたわ…。

ギルベルトは目から鱗な気分だった。

「これ…ローマに言ったのかよ?」
と、さらに聞くと、ロヴィーノは自嘲した。

「俺が爺さんに言えば下らねえ事でも通っちまうからな…それでまたグダグダ文句言われっし。爺さん以外は俺の言う事なんてそもそも聞いちゃいねえよ…」

「いや…これ言わねえとまずくね?つか、忘れてた俺様も俺様なんだけどよっ。」

「俺さまぁ?」

ムクリとロヴィーノが身を起こして、据わった目でギルベルトの襟首をつかんだ。

「てめえなんか嫌いだっ!いっつもひとのこと七光り野郎って目で見やがって。
俺だって…俺だって…好きで七光りとか受けてんじゃねえやっ!」

大きく吊り目がちな緑の目からポロポロと涙が溢れ出る。

「別に…すげえ身分とかじゃなくたって俺は構わねえんだよっ!
普通の一研究員でも過剰評価も過小評価もされねえで、やったことそのまんま返ってくる人間になりてえよっ!ちきしょうっ!!」

てめえなんかっ…と何度も繰り返し、シャクリをあげ、かなり酔っていた事もあって、やがて電池が切れたようにコトリとまたテーブルに突っ伏したロヴィーノを前に、ギルベルトは呆然とした。

「…こいつ…普通に優秀なんじゃん」

そもそもが上が揃って忘れてた移動距離問題にいち早く気づいてそれを埋めるべく取り組み、超小型の循環器システム搭載のバスルームまでついた至れり尽くせりの移動用の乗り物の設計図まで提供した日には、普通に科学者として出世できるだろう。

むしろローマ本部長の孫という肩書きが足を引っ張っている気がする。
みんな孫に甘い本部長の孫が本部長に言う事だからと正当な評価をしてくれない…そして当の本部長は過保護で本部長の仕事を孫に叩きこんでいこうと言う気が皆無だ。

そんな中でまっとうな事を言っていても正当に評価されない…それはものすごいストレスだっただろう。

「あ~、まじわりい。俺様も同罪だよな…」
さすがに反省して、とりあえず謝罪したが返事がない。

「おいっ!無視すんなっ!」
タンっ!とグラスをおいてロヴィーノの方をふりむいたギルベルトは目を丸くした。

「寝てやがる...のか?」
ロヴィーノはカウンターにつっぷしたまま寝息をたてていた。

「言いたい事だけ言い逃げしやがって...」
ギルベルトは前を向き直って一気にグラスの中身をあける。

「おい...どうすんだよ、これ。」
チラと隣を盗み見てため息をつくギルベルト。

「起きろよっ!」
グニ~っとその頬をひっぱってみるが、起きない。
それでなくても突き上げを食らっているロヴィーノだ。
こんな状態を部内の者に見せるわけにもいくまい。

「しかたねえな...」
ギルベルトはロヴィーノを肩に抱え上げると他人の目につかないようにそっと庭にでて、外から居住区の自分の部屋にむかった。





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