青い大地の果てにあるもの5章_1

「遅いぞ~、トーニョ」
ブレインのドアをくぐるとまず飛んでくるローマの言葉。
周りのブレインの部員は非常事態にワタワタと動き回っているが、部長であるローマは相変わらずどっしりと構えている。
この落ち着きっぷりがやはり一般人とは違う印象を与えている。

「やって…二日連続とかありえへんやん。」
それに対して、今まで経験した事のない厳しい事態に内心少し焦りながらも努めて同じく落ち着いた普段通りの口調で返すアントーニョに、こちらは非常時慣れしているのだろう、別に意識してではなく極々普通に
「だから言っただろ。さっさと行くぞって」
と、落ち着いた口調で口をとがらせるアーサー。

「ヴェ~…二人とも随分落ち着いてるねぇ。俺なんかもうどうしようかって思ってるのに」
そこで二人は初めてローマの隣で涙目になっているフェリシアーノに目をとめた。

「あ~、今回のチームはフェリちゃんなん?エリザから3対4に分かれるらしいって聞いとったけど…」
と、アントーニョが視線をローマに向けると、ローマはそこで初めて少し厳しい顔をした。

「ああ。今回は本部防衛に力入れねえとだから、外組に人員割けなくてな。
かといって外の敵放置するとこっち合流されてやっかいだから…。
…わりい、豪州支部壊滅に追いやった奴が混じってる中で3人てのは無茶なのわかってんだが…これが割けるギリギリの人員だ。
フェリはルートと離れての実戦は初めてなんで、トーニョ、フォロー頼むぞ。」

「あ~、はいはい。
とりあえず出来る限り足止めはやってみたるけど、やばなったら逃げるで?
豪州支部って前衛後衛でバランスええベテラン二人組やったろ。
その二人と支部の防衛設備使うてもかなわへんかった相手に3人きりて無茶やろ。」

小さく息を吐きだして言うアントーニョに、普段なら無茶でもやれと言うローマもさすがにそうは言えないようで、
「ああ、とりあえず出来る限り足止めして戻ってくれ」
と、うなづいた。

能力があるのはわかるがコンビを組むのは二度目のアーサーに、それでなくても戦闘に関してのメンタルが非常に弱い上に今までずっと一緒だったルートと初めて別々に任務につくフェリシアーノ。

そんなチームで通常のイヴィル×1と雑魚多数ならまだしも、そこに豪州支部を壊滅に追いやったとんでもなく強いイヴィルが追加された敵に向かえと言われると、さすがにアントーニョも自信がない。
せめてエリザがいてくれれば…と、内心ため息なのは仕方のない事だと思う。

エリザと二人ならお互い雑魚をなんとかあしらいながら、通常のイヴィルをどちらかが倒して、もう片方のフォローにあたるという事もありなのだが…。

正直自分は強い方のイヴィルに対峙して足止めするのに手一杯で他にフォローを入れる余裕などないだろうし、後衛二人だと雑魚の攻撃も受ければ致命傷になりかねないので、ここはせめて前衛を入れて欲しかった。

救いは…アーサーが後衛のみの厳しい戦闘慣れしている事だろうか…。


「アントーニョ兄ちゃん…今回厳しいんだ…よね?」
その後、詳しい情報を聞いたあと、駐車場のある8区まで行く道々、フェリシアーノは心細げに少し口数が少なくなったアントーニョを見上げる。
そこで始めて他者を意識して、アントーニョは平静を装って肩をすくめて苦笑した。

「あ~、もし俺が無言やったからやったら堪忍なぁ。
単にちょぉ腹たっとっただけやねん。
俺ら昨日も出させられてんで?
そんで今日また連ちゃんで、しかも敵さん来よるまでは一眠りできる留守組やなくて、敵さんとこまでこっちから出向かなあかん外組って、おっちゃん人使い粗すぎや。
そう思わへん?」

いつもの調子で軽く笑みを浮かべながら、そう誤魔化して恨み事を口にするアントーニョに、フェリシアーノはちょっと安心したように笑みを浮かべた。

「あ~うん…。爺ちゃんアントーニョ兄ちゃんに対しては遠慮ないよね。ベテランだし強いし潰れなさそうだからかな。エリザさんもそうだけど、エリザさんは女性だからね」

「エリザの方が俺よりタフやと思うけどな。」
フェリシアーノの言葉に軽く笑うアントーニョ。
「あの大剣振り回しても息一つ乱れへんて、どんだけやねん」

「あ~、確かにあれはすごいよねぇ。俺じゃあ振り回すどころかもちあがんないよ、きっと。」
ルートなら出来るかな、と、自分の白い手をかざしながらつぶやくフェリシアーノ。
そこでその名前を出した事で再確認するように
「…今回はルートいないんだよね……」
とうつむく。

「あ~、せやな。フェリちゃん初めての戦闘ん時からずっと一緒やったな。せやけど、これから全ジャスティスを本部に集めるさかい、そういう事も増えてくるかもしれへんで。少し慣れなあかんかもしれんなぁ」
「…うん…」
フェリシアーノはうなづいてチラリと他のジャスティスが待機中であろう4区のある後方を振り返った。
そしてポロリと涙をこぼす。

「…もし命の危険があるような事だったら…余計にルートと一緒が良かったなぁ。それで俺死んじゃうとしてもルートと一緒にが良かった。」

豪州支部を壊滅に追いやったイヴィル…それとフリーダムの援護すらなく対峙する恐怖と不安でフェリシアーノは耐えきれず嗚咽をもらした。

どんどん落ち込んでいくフェリシアーノに、今回はさすがに色々手一杯なアントーニョはフォローを入れる心の余裕がない。

しかしそこで
「ま、それ言ったら俺も桜とが良かったけどな。」
と、そんな動揺するフェリシアーノとは対照的に、アーサーは淡々と言って肩をすくめた。

「防御と回復…それが本部防衛組に必要なのはわかる。でも普段組ませている組み合わせって言うのは個々の能力を最大限に発揮するための組み合わせだからな。それを崩したら戦力半減しても不思議じゃない。」

初めて口を開いたアーサーに驚いて、フェリシアーノは少し泣きやんで自分とほぼ同じくらいにあるその顔に目線を映した。

「フェリちゃんだけやなくて、タマまでそれ言わんといて~。親分傷つくやん」
と、そこでフェリシアーノが泣きやんだ事に少しホッとしてアントーニョが言うと、アーサーはツンとそっぽを向く。

「勝手に傷ついてろよ、ばぁかっ。とりあえず桜に相当するくらいにはちゃんと働けよ?出ないと見捨てるからなっ。こいつ連れてちゃっちゃと逃げてやるっ。」
と、親指でフェリシアーノを指差すと、フェリシアーノはいきなり巻き込まれて一瞬ぽか~んとしたが、次の瞬間にクスクス笑みを浮かべた。

「そうだねっ。そう言えば本部って俺以外後衛っていなかったから、誰かと横並びで戦闘した事なかったや。一緒に逃げるって言うのもいいかもね。俺逃げるのは得意だよっ」

「フェリちゃんまで~。堪忍したってや。」
と、なさけなさそうな顔をしておどけるアントーニョに、
「え~、だって~」
と、フェリシアーノは笑ってアーサーの腕を取る。

ああ…こうやって二人じゃれているのを見てると見た目天使やなぁ…と、それを見てアントーニョが思ったのは秘密である。


そんな3人を秘かに見つめる目が4つ…。



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