序章 （前日）悪友＋１ それぞれの事情
アントーニョの場合
「私さ、マイクとつきあう事になった♪」
クラスメートのシンディからの電話。
そう”クラスメート”。
その前に”仲の良い女の”という言葉がつくわけなのだが…
「今だから言うけどさ、私1年の頃はアントーニョの事ちょっと好きだったんだ。でもアントーニョってみんなに優しいっていうか…私が特別だからなわけじゃないじゃん？んで、そんな時さ…マイクに会ったわけよ♪」
それからまあ延々とノロケ話をきかされた。
（…好きならそれ早く言うてや…）
と、アントーニョは相手にわからないようにこっそりため息をついた。
シンディだけじゃない。もう何人の”仲の良い女の”友達に同じ台詞言われたのだろう…。
身長はそこそこ高い。顔もまあ良い方だ。
成績中の上、人当たり◎、友人多し。
そんなアントーニョの評価は”誰にでも優しい良い人”。
人当たりの良さからいつでも周りには人が集まるし、女の子の友人も数え切れないほど。
それでも”モテそうだよね”と言うものの、じゃあ自分が彼女にって言う女はほぼいないというのがミソだ。
そして今日も秘かに良いな～と思ってた相手から彼氏げつ宣言されたわけで…
いつでも決して”主役（彼氏）”じゃなくて”脇役（良いお友達）”で終わっている気がする。
アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド、高校２年生17歳。
彼女なし！というか微妙に失恋風味？
そんな最悪にして退屈な夏休みのはじめに小包が届いた。
…差出人は日本でも屈指の有名大企業、三葉商事だ。
なんやこれ？？？
開けてみたら入っていたのは手紙と一枚のゲームディスクとそのマニュアル。
とりあえずディスクは置いておいて、白い封筒の封を切ってみる。
【 拝啓 アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド 様
今回当社はある試みのため、都内在住の12名の高校生の皆様に無作為に
同封したオンラインゲームのディスクを送っております。
このゲームは魔王を退治する事を最終目的としたRPGです。
そして魔王を倒した一名様に賞金１億を差し上げます。
なお、この他にもミッションを一つクリアするごとに賞金10万円を進呈いたします。
もちろんネットにつなげる環境さえあれば、費用は一切頂きません。
受付開始日時：
7月25日午後8時。
アクセス可能時間：
開始日～目的達成時までの20時～24時
（この時間以外はサーバーにアクセスする事はできません）
参加資格；
この通知を送られたご本人様のみ。他者への譲渡は不可とさせて頂きます。
なお、ご本人様であれば一度不参加の意思表示を取られたあとでも再度の参加は可能。キャラデータ等は目的達成時まで保存しております。
また、ディスクを紛失、破棄してしまった場合も再度送らせて頂きますので当社窓口までご一報下さい。
その他詳細につきましてはマニュアルをご覧の上、ご不明な点がございましたら当社窓口まで
お問い合わせ下さい。
※すみやかにゲームを始める為に、あらかじめゲームのインストール作業を行い、
マニュアルに目を通しておいて頂く事をオススメします。】
はあ？？
とりあえずマニュアルを開いてみた。
基本操作…は今見てもしかたないというか、面倒なマニュアルはふざけた態度とは裏腹に几帳面な悪友の一人を捕まえて読ませてかいつまんで話させる事にする。
そしてとりあえず先にちょっと面白そうなキャラメイクに目を通してみた。
全ジョブ７種類。
１ジョブにつき選択できる人数は二人。
ようは…戦士というジョブをやりたい人が三人いても、二人までしか選択できないため、残った一人は別ジョブを選択しなければいけないと言う事だ。
ジョブの選択は早いもの勝ち。
ただし、キャラを作り変える事や、ジョブを変える事はできない。
そして選択できるジョブは以下の通り
攻防の値の基本になっているのはウォーリア。
○ウォーリア：攻守共にバランスの取れた近接アタッカー
○ベルセルク：攻撃特化の近接アタッカー。攻＝倍、防＝半分
○アーチャー：遠隔物理アタッカー。攻＝倍、防＝４分の１
○ウィザード：魔法アタッカー。攻＝倍、防＝10分の１、範囲攻撃可、属性によって得手不得手がある。
○プリースト：ヒーラー。治癒、蘇生魔法。攻＝10分の１、防＝5分の１
○エンチャンター：攻防命をそれぞれ倍加する魔法。攻＝４分の１、防＝半分
○シーフ：近距離＆遠距離物理アタッカー。攻＝半分、防＝３分の１、回避＝４倍
男女でパラメータの差はないから、外見はまあご自由にといったところだ。
ミッションを一つクリアするごとに10万円かぁ…。
これあればバイトしなくても夏休み遊んで暮らせるなぁ…
一億円なんてどうせ取れへんやろうけど、暇つぶしに遊びながら10万ももらえるなら御の字やなぁ。
一応大企業のやることだからおかしな事にはならないだろうし、ちょっとやってみよか。どうせ暇やし。
と、アントーニョはとりあえずインストールするためディスクをPCに放り込んだ。
本当に何にも考えてなかった。
周りはどんどんカップルになってって欝だったし、暇だったし、かといって勉強するのもダルかったし。
普段だったらもうちょっと考えたんだろうと思うが、考えない方が時に幸運というのは転がり込んでくるのかもしれない。
まあ…この時の決断というのは、本気でついてないアントーニョの人生を180度変えるものになったのだが、この時はそんな事予想だにしていなかった。
ギルベルトの場合
“一人楽しすぎる男”
それがギルベルトの通称だ。
もちろんホントに一人なわけではない。
フランシスとアントーニョ、二人の悪友がいるのだ。
ボッチなわけでは決してない…と断言はできるが、しばしばその二人に面白半分にはぶられる。
ゆえについたあだ名がくだんの“一人楽しすぎる男”なのだ。
そんなギルベルトの元に小包が届いた。
…差出人は三葉商事…日本屈指の有名大企業だ。
なんだこれ？？？
開けてみたら入っていたのは手紙と一枚のゲームディスクとそのマニュアル。
とりあえずディスクは置いておいて、白い封筒の封を切ってみる。
【拝啓 ギルベルト･バイルシュミット 様
今回当社はある試みのため、都内在住の12名の高校生の皆様に無作為に
同封したオンラインゲームのディスクを送っております。
このゲームは魔王を退治する事を最終目的としたRPGです。
そして魔王を倒した一名様に賞金１億を差し上げます。
なお、この他にもミッションを一つクリアするごとに賞金十万円を進呈いたします。
もちろんネットにつなげる環境さえあれば、費用は一切頂きません。
受付開始日時：
7月25日午後8時。
アクセス可能時間：
開始日～目的達成時までの20時～24時
（この時間以外はサーバーにアクセスする事はできません）
参加資格；
この通知を送られたご本人様のみ。他者への譲渡は不可とさせて頂きます。
なお、ご本人様であれば一度不参加の意思表示を取られたあとでも再度の参加は可能。キャラデータ等は目的達成時まで保存しております。
また、ディスクを紛失、破棄してしまった場合も再度送らせて頂きますので当社窓口までご一報下さい。
その他詳細につきましてはマニュアルをご覧の上、ご不明な点がございましたら当社窓口までお問い合わせ下さい。
※すみやかにゲームを始める為に、あらかじめゲームのインストール作業を行い、
マニュアルに目を通しておいて頂く事をオススメします。】
超天才でイケメンな俺様を選ぶなんてこいつらわかってるぜ！
と、一人ご満悦なギルベルト。
悪友たちのネタだとか、悪質な詐欺だとかいう考えは脳内にないらしい。
そしてもう思い切りやる気満々でマニュアルを開いてみる。
ざ～っと目を通してにんまり笑う。
「俺様天才だし楽勝楽勝！1億円何につかうかなぁ…ああ、その前にあいつらに自慢しねえと」
と、携帯を握るギルベルト。
その“あいつら”にも同じ物が送られてきているなどとは当然知る由もない。
もちろんそれを知ったからと言って、彼のやる気は誰にも止められるものではなかったのだが…。
フランシスの場合
自分で言うのもなんだが、フランシスはモテる。
特定の彼女は作らないが、休日を一緒に過ごす女の子には事欠かない。
はっきり言って忙しい。
忙しいのだが…
『こんなん届いたんやで～：ｂｙアントーニョ』
というメールが悪友の一人アントーニョから来た直後、
「ケセセ、俺様は選ばれし高校生なんだぜ！」
という電話がもう一人の悪友、ギルベルトから来た時点で、
（やっぱりお兄さんもこれやらないとダメなのかしら？）
と、やはり自分の所にも来ている怪しいディスクを前にため息をついた。
女の子の代わりはいても悪友の代わりはいない。
フランシスは軽薄に見えても実は友人は大事にする男だ。
大事にしすぎて自分の身が危うくなる…そんな事は予想もせず、それぞれ別の意味からやる気満々な、文字通り“悪”友に巻き込まれて行く様は、不憫という別名を拝するギルベルトよりもしかしたら不憫な男なのかもしれない。
アーサーの場合
アーサー・カークランド、高校２年生16歳。家族は兄一人。それも仕事仕事で自宅にはよりつかない。
幼稚舎から一貫教育の名門男子高で育ち、文武両道を旨とし、何故か悪友に推薦されて生徒会長まで務める事になる。
彼女…など作る出会いもなく、バイト…などする暇はない。
そんなこれと言った変化もない夏休みのはじめに小包が届いた。
…差出人は三葉商事…日本屈指の有名大企業だ。
なんだこれ？？？
開けてみたら入っていたのは手紙と一枚のゲームディスクとそのマニュアル。
とりあえずディスクは置いておいて、白い封筒の封を切ってみる。
【拝啓 アーサー・カークランド 様
今回当社はある試みのため、都内在住の12名の高校生の皆様に無作為に
同封したオンラインゲームのディスクを送っております。
このゲームは魔王を退治する事を最終目的としたRPGです。
そして魔王を倒した一名様に賞金１億を差し上げます。
なお、この他にもミッションを一つクリアするごとに賞金十万円を進呈いたします。
もちろんネットにつなげる環境さえあれば、費用は一切頂きません。
受付開始日時：
7月25日午後8時。
アクセス可能時間：
開始日～目的達成時までの20時～24時
（この時間以外はサーバーにアクセスする事はできません）
参加資格；
この通知を送られたご本人様のみ。他者への譲渡は不可とさせて頂きます。
なお、ご本人様であれば一度不参加の意思表示を取られたあとでも再度の参加は可能。キャラデータ等は目的達成時まで保存しております。
また、ディスクを紛失、破棄してしまった場合も再度送らせて頂きますので当社窓口までご一報下さい。
その他詳細につきましてはマニュアルをご覧の上、ご不明な点がございましたら当社窓口までお問い合わせ下さい。
※すみやかにゲームを始める為に、あらかじめゲームのインストール作業を行い、
マニュアルに目を通しておいて頂く事をオススメします。】
怪しい…絶対に怪しい。
問い合わせ先は確かに三葉商事の代表窓口だ。
念のためにこういう物が送られてきたんですが？と問い合わせてみたが、確かに三葉商事でやっている試みだと返答が返ってきた。
嘘や釣りではないらしい。
一応本当らしいとの前提の元に、とりあえずマニュアルを開いてみる。
ミッションを一つクリアするごとに十万円。
察するに…新しいソフトのテスターなのだろうか。
それにしてはレポート提出の義務もなくいきなり金を送りつけようと言うのが、あまりに無計画で、企業の事業計画のずさんさが見受けられる。
こんなのが日本有数の企業なのだろうか…などと別にその企業に務めるわけでもないのに憤るのが、優等生の彼らしい。
なあなあで済ませられない、それが、成績優秀、スポーツ万能、さらにやや童顔だがまあイケメンという一見完璧な彼の一番の欠点と言える。
きっと彼の他の参加者の中には、暇つぶしに遊びながら十万円ももらえるなんて超ラッキー？などと考えてるお気楽な奴もいるはずだ。
そんな冷ややかな反応を見せている彼を、それでもこのゲームへの参加に駆り立てた理由は、他の高校生と接してみたいと言う事。
学校では生徒会長として尊敬はされるもののまた敬遠もされている。
家に帰っても一人きりで誰もいない…。
友達が欲しい…。
なんとも寂しい理由だが事実だ、仕方がない。
こうしてアーサーは棺桶に片足突っ込むような事になるとは思わずに、このゲームを始める事にしたのだった。
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