オンラインゲーム殺人事件_葵_12章

第4の殺人(24日目)


ゲームに関しては、私達はあれ以来、コウにうながされて鬼の様な勢いでレベルあげをしつつミッションをこなしている。

レベルはすでにコウが40、私達は39になっていて、ミッションは最後の7、要は魔王退治のミッションを受けた。



魔王退治のミッションはお城で受けた後に教会に行く様に言われ、教会で聖痕をつけてもらう。
それがついているとお城の裏にある湖から魔王の城のある世界に行けるらしい。

「で?どうするん?」
聖痕をつけてもらった左手を上にかざして、まじまじと見ながらユートが言った。
「ん、行くに決まってるだろう。」
「行くんだ?」
コウの返事にユートが目を丸くする。
「もう勝てんの?」
「いや…負けるな。』
あっさり言うコウ。
「負けるのわかってて行くんです?』
さすがにフロウちゃんも不思議そうに首をかしげるが、それに対してコウが
「ん~、姫早く魔王みたいだろ?』
と答えると
「はいっ♪楽しみです~♪』
と、その場でぴょんぴょんはしゃぎ始めた。
まさか…そのために行くとか言わないよな……。

「コウ……』
私が疑念の目を向けると、コウは笑った。
「別にそれが理由とかじゃないからな。』
私の言わんとする事を察して、即言う。
それからふと笑うのをやめた。

「どちらにしても一度でクリアはまず無理だからな。
魔王の所までの道とか敵の配置とかある程度把握するのが今回の目的。
レベル的にもまだ足りないと思うが、レベルが足りてる状態で行っても、そこに辿り着くまでに疲弊してたら勝てるものも勝てないだろ。
だからまず魔王の周りを徹底的に調査して情報をまとめて、なるべく良い状態で魔王に辿り着ける様に計画を練る。』

さすがコウ…考えてるなぁ…。

「んじゃ、そう言う事で各自必要なもの買ったら城の湖前集合な』

コウは言って街中でも迷子になって暴走するであろうフロウちゃんに付き添って商店街に消えて行く。
私は武器を新調すると言うユートと分かれて、一人防具屋さんに向かった。

武器買ってもねぇ…あんま意味なさげだもんね、シーフって。
攻撃にかけるお金あるんなら回避で勝負だ~♪
シーフの回避は世界一~♪

私は鼻歌まじりに武器屋さんの並びの防具屋さんに足をむける。
そこでいきなり後ろから誰かにトレードを申し込まれた。
「…?」
不思議に思って振り向くと、そこにはヨイチ………
反射的にボタン押しちゃって受け取っちゃった物は…ポーション…要はHPを回復する薬だ。
「えっと?」
何故いきなりポーション?と戸惑っていると、ヨイチはクルっと反転。ピュ~っと逃げて行った。
な…なに???
呆然とポーションを見つめる私。
さすがに……ゲーム内アイテムだから毒とかは…ないよね……謎…。

使っていいのか捨てるべきなのか返すべきなのか……よくわからない……。
しかたがないので鞄の肥やしにしてみることにした。
そして釈然としないまま、それでも回避をあげる腕輪とかを買って待ち合わせ場所に急ぐ。

待ち合わせ場所についたのは私が最後だった……けど取り込み中……。
またシャルルに抱きつかれてるコウ……。
即距離を取ってまた追ってこられて距離とって……

『またやってるんだ?』
私はユートの隣に行って、パーティー会話で言う。
『やりたくてやってるわけじゃないっ!』
即返ってくるコウの返事。
『ん~~なんとかして欲しい?コウ。』
まったりとした口調で言うユートに
『できるんなら早くなんとかしてくれっ!』
と、思い切り焦った口調のコウ。
『んじゃまあ…2分ほど待って』

(ユート…なにするの?)
例によって携帯で話しながら遊んでるので、私はユートに聞いてみた。
(まあ見ててっ)
電話の向こうでユートがクスクス笑ってる。
なに企んでるんだろう……。
私はディスプレイを凝視した。

そこでおもむろに動き出すフロウちゃんキャラ。
コウのキャラのすぐ側に立つ。
ハグ、チュッ、スマイルのコンボきた~~。

あ…コウが硬直した。
『は~い、そこで硬直しない。コウも同じ動作~』
『できるか~~~!!』
そこでユートとコウが無言、多分ウィス。
(今…できなきゃこのまま追い回されるよって説得中)
と、明らかに面白がってるな、ユート。
そんな中、フロウちゃんが一人
『コウさんでもできない事あるんですね~♪
私今ユートさんに面白いよって言われて教わってやってみたんですけど、簡単ですよ♪』
と、動作法を語り始める。
そしてコウが渋々(?)同じ動作。
(どうせ姫は新しい動作をやってみてるくらいの認識しか持ってないからって事で落ちたっ)
なるほど…。
そしてコウがスマイルしたところでユートはおもむろにシャルルを振り返ってニッコリ。
「という事だから、コウの事はあきらめてね。」
と通常会話で言うと、今度はパーティー会話で
『さ、今のうちにご~』
と、みんなを湖の方に促した。

そして城の奥の湖の前にたたずむ私達4人。
『ということで、出発前に確認。まだウィス来てる?コウ』
『……来てない…』
『それは良かった。一応…彼女の方にちょっかいかけたらコウは本気で大激怒するのはイヴが立証済みだからってウィスも入れといたから(^^』
『周到だな……』
『そりゃあね。魔王の城なんかでコウに暴走された日には俺達終わるじゃんw』
ま、そりゃそうだ。
(これでもまだちょっかいかけてくるなら嫌がらせ目的の犯人最有力候補決定って事で落ち着くしかけてこないなら魔王退治に向かって前進できるからね。
そしたらアオイも怯えて生活せずにすむし、もうちょっとの辛抱だよっ)
ユートが携帯の向こうで励ます様に言う。
そのために動いてくれてるのか、と少し嬉しい。でも実はユートって結構策士だったり?
意外な一面をチラリとのぞいた気がした。

そして魔王の所に行っては見たんだけどあえなく撃沈。
それぞれ42のイヴちゃんとアゾットも撃沈したらしいから、4人でやるにしても、もう少しレベルが必要だよね、どっちにしても。

そして翌日、インすべくPCの前で待ち構えていると、携帯のベルがなった。
ユートだ♪

「もしもし、アオイ?朗報だよっ」
電話に出るとユートが珍しく興奮した様子で言う。
「なんかすごぃ嬉しそうだけど、どうしたの?ユート」
「もうアオイが怯えて暮らさなくても良くなるかも知れないっ」

そこで一呼吸おくユートの言葉を私は待った。
それはすごく魅力的な言葉で、次をせかしたくて仕方ない。
それでもその言葉を口にするタイミングは、ユートに任せたいとジリジリしながらも待つ事にした。

何時間にも感じる一瞬が過ぎた後、ユートがはずんだ声で言った。
「エドガーが…犯人がわかったから今日みんなの前で発表するって」
「エドガーが?」

あちこちで情報を集めてたみたいだけど、とうとう犯人に辿りついたんだ…。

目の前がぱ~っと明るくなった気がした。
 
「でもなんでエドガーがそんな事言ってるのユートが知ってるの?」

素朴な疑問。
ユートってインしてる時はずっと私達といたし、そんなにエドガーと仲良かったっけ?
「ああ、実はね、エドガーってとにかく集められる限りの情報を集めて、そこから意味ある情報とない情報を取捨するって形で推理を進めてたらしいんだ。
で、俺らの事も知りたいってことで、俺に聞いてきてたから。
もちろん携番とかリアルの人物像に結びつくような情報は教えてないけどね、一応事後でごめんね、なりすましメールがあった事とかは事件に関係ありそうだから伝えておいた。」

「うん、それはいいよ」
それを言われたからって今更なんにも痛いことはないし…
それで?とうながすと、ユートはちょっとホッとしたように続ける。

「で、俺には色々情報もらったからって先にね、メールくれる気になったらしくてね、あ、そだ、それそのまま転送するね。」

ユートは言って私にメールを送ってきた。

『やあ、ユート。
今まで色々聞かせてくれてありがとう。
おかげでようやく犯人が割れたよ。
んで、すぐ糾弾したいところなんだけど、
実はそうと知らずに犯人と行動を共に
してる人がいるんだ。
追いつめられた犯人がその人物に危害加えない
とも限らないから、とりあえず先にその人物に....
事情を話して距離を取る様に忠告して、距離を
取ったのを確認したあと、主催にとりあえず
連絡をいれると共に、みんながいるところで
僕の推理を披露しようと思う。
まあ楽しみにしていてくれ。
それでは夜にまた。
エドガー@芳賀耕助』

え~っと…
「これってなりすましとかじゃないよね?」

前回の事もあって、もうユート以外はおもいっきり疑ってるかも、私。
美味しい話には裏があるんじゃないかなんて…性格歪んだよなぁ。

私の第一声にユートは吹き出した。
「ないないっ!エドガーとも暗号入れてやりとりしてるから。
ちゃんと本人だよっ。」

「暗号って…途中で4つの点がはいってるとかいうこと?」
こんなん私にもわかるよ…すごい不自然だし…。
「ブブ~不正解。彼は推理小説マニアらしくてね、暗号も凝ってるよ」
笑いを含んだユートの声。
「ヒント!」
なんかそう言われると気になる。
「しかたないなぁ、一個だけね、それでわからなければ諦めて」
と、ユートはメールを一通送ってきた。

『こんばんは、アオイ
すごく難しいからまずばれないと思うけど...
これがわかったらアオイかなり頭良いと思うよ。
事件が終わって安全になったら、全員にわかるか
どうかきいてみたいくらいだ。
コウでも…わかんないかもしれないっ。』

「メール届いた?」
「うん」
「わかった?」
「わかんない」

ほんっきでわかんないよっ、これ。
コウ!コウに聞いてみたいっ!
「もう一通!もう一通だけヒントちょうだいっ」
思わず食い下がるが、ユートに
「だ~めっ。もうすぐ安全になるんだから、なってからゆっくりね」
とやんわり断られた。
ちぇ~っ。

それでももうすぐ安全になると思ったら自然に顔に笑みが浮かぶ。

「ね、安全になったら一度みんなで会ってみたいねっ。」
思わず言うと、ユートはそうだね、と言いつつ
「でも一応ゲームが終わってからかな。それまでは第二第三の殺人犯が現れないとも限らないしね」
と付け足す。
そっかぁ…でもそしたらゲームに集中できるし、ゲームも早く終わるかも♪

楽しい気分でそんな話してたら時間になってゲームにログインする。

入って即ユートとパーティーを組んでエドガーが現れるのをわくわくしながら待つ。

途中でコウとフロウちゃんが来る。

遅いな~、エドガー。

『まあ…インしたら全員にメッセージ送って広場にでも集めるんじゃないかな?』
ユートがウィスを送ってくる。

そう…だよねっ♪

気を取り直していつものようにレベルあげにいそしむ。

………
遅い…
………
来ない…
………

どうして??!!
そして0時……

がっくり……
すっごぃ楽しみにしてただけにがっくりだよぉ……

『おい……お前大丈夫か?」

狩り場からの帰り道、ショックのあまりボ~っとしてて敵の群れに突っ込んで危うく死にかけた。

コウがさすがに心配して聞いてくるけど説明する元気もない……

そのままログアウト…

信じらんない…ありえない……

PCの前で放心してると携帯がなる。
……ユートだ…。

さっきとはうってかわった深刻な声。
「アオイ……今…テレビ見れる?○チャンネル」
すごい嫌な予感……
手元のリモコンでテレビをつける。

駅のホームで突き飛ばし……
死亡したのは…都内在住の高校生…芳賀耕助君…

目眩がした。

「犯人に……殺されたの?」
「だと…思う」

どうして?犯人はエドガーが正体をつかんだのを知ってたの?
「ユート…さっきのエドガーとのメールの話…他に誰かにした?」
混乱した頭で聞くと、ユートは
「いや…コウとアオイにだけだよ」
と否定した。

じゃあ…どうして?
もしかして…メールの内容がどうやってか漏れてるの?
私のショックの大きさを感じたのか、ユートは電話の向こうで小さくため息をついて言った。

「証拠がない…エドガーがそう思った根拠もわからない。
だけど…一つだけわかった事があるよ、アオイ」
「……?」
「エドガーは犯人の側にいる人間に忠告するって言ったよね」
「…うん」
「って事は……犯人は"複数で行動している”人間だよ…」

あ…そっか……。

「俺達以外でさ、複数で行動してるのって一組だけだよ」
「まさか……」
「うん…もしエドガーの言ってた事が真実だとしたら犯人は……」
「アゾット?!」

あの優しそうなプリーストが殺人犯??
私の脳裏にはいかにも聖職者と言った感じの、優しげなプリーストの姿が浮かんでは消えた。

「でも…さ、この前ユートも言ってたけど…プリーストがどうやって魔王にとどめさすの?」
私の素朴な疑問に、ユートはそれだよなぁ…とつぶやいた。

「どう考えても…さ、ウォリアーのイヴに持って行かれるよな」
「うん…」
「途中までは利用できるとしても…さ、魔王戦になったらもう無理だよな。」
「あ…でもさ、魔王戦になったら回復やめてイヴちゃん死なせておいて、自分がとどめってどう?」
我ながらナイスアイディアだと思ったんだけど、ユートに即否定された。

「魔王ってどのくらいで倒せるかわからないんだよ?自分が倒せる以上の残りHPだったら終わるよ?
現に二人でやって敗退してるわけだしさ…。一度そういう態度取ったらもう疑われちゃうから、何度も試す事もできないしさ…」
「そう…だよねぇ…」

そうなると目的がわかんない…。
そもそも…エドガーの推理を聞いてないから、彼の推理が正しいかもわかんないよね、今となると…。

あ~ふりだしかぁ…。

でもとりあえず要注意人物は……アゾット…


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