ジュリエット殺人事件G_1

その男、傲慢につき


箱根にあるエリザベータの父方の祖父の別荘。
そこでこれから繰り広げられるのは、2人の女子高生の女同士の見栄が発端となった熾烈な戦いである。

そしてそれに巻き込まれた男達の1人…ギルベルト・バイルシュミット。


――戦いってのはすでに道中から始まるもんだぜ?
と、その彼がにやりとそう言い放って現地まで手配したのは2台のロールスロイスのハイヤーだ。

確かに巻き込まれであるにも関わらず、わざわざ自腹で用意したそれに、場所の提供者でありギル達兄弟の母方の従姉妹でもあるエリザは

「あんたも物好きよね。
元々はそんな浪費家じゃないと思ってたけど?」
と、呆れてため息をつく。

そんなエリザの言葉に広い車内でゆったりと本のページをめくっていたギルベルトは視線は本に向けたまま、
「男が惚れた相手のために使う金は浪費とは言わねえ。
口に気をつけろ」
と淡々と言い放った。

そうしつつパラリとまたページをめくる白く長い指先。
視線を落とすと髪と同色の綺麗な銀色のまつげが意外に長い事がみてとれる。
彫りが深い彫刻のように美しい顔立ち。
それは整い過ぎていて冷たい印象すら与えていた。

が、普段自分に向ける甘く優しい言葉とは違い、従姉妹であるエリザにこうやってかけるやや温度の低い言葉もそんな仕草も“クールで出来る男”という感じでカッコいいなぁとアーサーはその姿に見惚れる。

もっともギルを知る人間はみな口を揃えてこちらの方が普通だと言うので、自分に向ける態度の方がレアなのだろうが…。

そんな事を考えつつアーサーが視線を向けている事に気づくと、ギルは読みかけであろう本を惜しげもなく閉じて、

「どうした?お姫さん。
退屈か?」
と、途端にとろけるような優しい目でアーサーの頬に手を伸ばしてきた。
唯一と定めた相手に対してはどこまでも甘い男だ。

その一方でエリザにはやはり淡々とした口調で言う。

「まあ提案したのは俺様だが、今回の費用はルッツ持ちだ。
フェリちゃん関連の案件だしな」
「なら余計に…こんな事させておいて良いの?」
「ん。やるなら完膚無きまでにだろ?
登場から退場まで完全勝利目指さねえと」
「それでこれ?」
「今回の勝負の原点は完璧な人材を集められるか…って事だろ。
それならこれで正解。
一過性の勝負だけじゃなく、二度とはりあおうなんて気がおきねえように、最初から最後まで徹頭徹尾、微塵もかなうところはねえってわからせてやらねえと。
…俺様を召喚したってことはそういう事だ。
まあ、俺らは前回のゲームでミッションオールクリアしてっから、70万ほど稼いでるし?
それでフェリちゃんの家族のメンツ立てて恩売れるならルッツにとっても安いもんだ」

なんの気負いもなくそんな事を口にする日本で一番賢い高校のさらに頂点に君臨するエリート様に、自身も財閥の総帥の跡取りであるエリザですら冷やりと緊張に似たものを感じる。

勝負ごととなれば、怜悧で無情で容赦のない男だ。
普段はおちゃらけて見えるが、道化の仮面を外したこの男を敵には回したくないと心底思う。




エリザは今回は中立の見届け人ではあるが、色々な事情でこちら側の車で移動する事にしていた。

ギル、アーサー、エリザとルート、フェリ、そしてフェリの姉で今回の当事者の1人であるキアーラ。
3人ずつ2台に分かれての乗車である。

向こうはフェリは良いとして、ルートは小姑に当たるフェリの姉と同乗ということで、さぞや針のむしろだろうが、まあそのあたりは頑張れと言うしかない。

こちらはギルとエリザは互いに親戚、アーサーはギルとは恋人でエリザとは中学時代に学園祭の劇でロミオとジュリエットを演じた事もある親しい先輩と後輩と言う事もあり、なごやかなものだ。

まあ…勝負事を前にしたギルはそうとは見えないが従姉妹で幼い頃から知っているエリザには若干感じられる程度には緊張感を帯びているのだが、それも愛しい愛しいアーサーがいれば外に漏れて気まずくなると言う事はまずない。


「…なるほどね。
あんたってしゃらくさいほどその手の事には長けた完全主義者よね」

と最後にそう言って、エリザは今後の何かのネタに…と、意識を愛しい可愛い恋人に向け始めた従兄弟の言葉をしっかりメモに取り始めた。




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