聖夜の贈り物 4章_3

「やっぱり…帽子だけじゃ足りへんやんなぁ…」
アーサーが立つトマト畑から少し離れた大木の影にたたずむ人影。
片手には濡れタオルと水筒、片手には日差しよけのタオルケット。
いつ倒れても準備OK.。スタンバイ状態のアントーニョ。
初めて畑で倒れているアーサーを連れ帰ったその日以来、実は毎日こっそり木の影で見守っていたりする。


「やっぱりこのあたりは陽射しの強さが違うさかい、慣れとらん子にはきついみたいやし、いっそのことあのあたりだけ屋根つけたろか…また日射病で倒れても可哀想やしな。」
と、ハラハラとアーサーの方に目をやるが、やがて軽く両手を広げて呪文を唱え始めたアーサーを目にすると、
「やっぱ可愛ええなぁ~」
と相好を崩した。
「植物は話しかけると元気になるてよう言うけど、話しかけてるのが俺の可愛ええアーサーやとホンマ元気いっぱい葉っぱつやつやって、さすが俺のトマト!人見る目あるなぁ…」

…そう…一般人にとっては魔法は火を出すか水を出すか、何をだすかはともかくとして、ただの武器という認識しかない。
唯一魔術師と言う人種がいる東の国でもそうなのだから、他の国ではなおさらだ。

なのでアーサーが隠すまでもなく、アントーニョも含めて一般的にはトマトを育てるのに魔法を使うなどという発想はない。
まあ…トマトが話しかける相手を選んで元気になるという考え方が一般的かと言うとまた論議をよぶところではあるが…。

ということで、アントーニョの目には自分の家族の可愛いアーサーに、紅茶と刺繍などの趣味と同じく、植物に話しかけながらのんびり散歩をするという可愛い趣味があるとしか映っていない。

そして…アントーニョ自身には、そんなアーサーを護衛と称して観賞するためこっそり着いて行くという、はたから見たらちょっと危ないんじゃないかという趣味が出来たわけだ。

まあそんな自分に言い訳するわけではないが、アーサーは一人にしておくと色々危険だ、と、アントーニョは思う。

西の国の西南端に位置するこのあたりは晴れの日が多く陽射しが強く、ほとんどの民は農業を生業としていてこんがりと陽に焼けた健康的な褐色の肌をしている、西の国でも最も西の国らしいと言われてる地域だ。

北の人種のように特に大柄というわけではないが、多くは日の出と共に起き、畑で肉体労働をし、日の入りと共に寝るという暮らしのためか、ほどよく筋肉のついた体をしている。

王族といっても子供の頃はそれほど周りと変わらない暮らしをしていたアントーニョも、例外ではない。
戦地に赴いている間は近くに住む農民に世話を頼んでいたが、自身も小さいながらも畑を持ち、暇を見つけては農業にいそしんでいる。

そんな生粋の西南人のアントーニョから見ると、アーサーは驚くほど白くて華奢だ。
下手するとこのあたりの女たちよりかよわいんじゃないかと思っていたら、ここにきて初めて一人で散歩に出た時、畑仕事をするわけでもなくただ散歩に出ていただけなのに、日射病を起こしたらしく倒れていた。
過保護に育てたと思っていたロマーノですら、もう少し頑丈なんじゃないかと思う。

体の強さだけじゃない。
箱入りのはずなのに用心深くアントーニョ以外には断固として心を許さなかったロマーノと違い、アーサーは怯えをみせつつ結局流されるというか、危機感も今一つ足りない。

(結局…故郷から遠くに連れて来られて、うま~く閉じ込められてんのに気づいてへんもんなぁ…)
自分でそう誘導しておいてなんだが、こんなにぽわぽわしていていいものなのだろうか…と、本当に心配になる。

強くはないが、逃げ足の速さにかけてはアントーニョも舌をまくくらいだったロマーノと違い、アーサーはホワ~っとしているうちに捕まえられて、それから慌ててじたばたと涙目で抵抗するタイプな気がする。
絶対そうだ。
それでいてなまじ捕まえたくなるような可愛らしい容姿までしているからたちが悪い。

『外は危ないから出たらあかんで。誘拐されてまうよ?』
と言う度、
「俺なんか誘拐する物好きいねえよ」
と返してくるのだが、言ってやりたい。
”少なくとも自分の目の前に一人おるやん“
と。

普通…記憶喪失の子供なんて見つけたら、親を探すそぶりくらいはみせるだろうとか、いきなり(故郷である東の国から)遠い場所へ連れ去ったりしないだろうとか、もう諸々気付いてない時点でアウトだと思うのだが、気付かれても困るので、黙っておく。

まあ今更どこかへ帰す気はないし、自分はいいのだ。いいことにするっ。
問題は…自分以外に不穏な輩が近づいた時だ。





アーサーは確かにとても不思議な拾い方をして、しかもあまりに自分が望んだような性格でいちいち望んでいたような反応を返してくるので、一人になった自分へのサンタクロースの贈り物という考えがよぎる事もあるのだが、アントーニョとて早々そんなおとぎ話を絶対的に信じているわけではない。

もちろん帰す気がないというのは本当に本気で決めているので、拾ってから今まで色々な現実的な可能性を考えた。

アーサーは普通の庶民の子供ではない。
それは拾った時身に着けていた衣服や世間知らずっぷりもさることながら、何よりその物腰に見てとれる。
庶民と宮廷両方を行き来して、両方の人間に接してきた自分の感覚は確かだとアントーニョは思う。

そんな良い家の子息が何故一人であんな戦場で倒れていたのか…。
一人であんなところへくる事はあるまい。
とすると…誰かに連れてこられたということになる。

お家騒動かなにかで捨てられたか、もしくはそれこそ誘拐されて逃げてきたか…。
前者なら別に良い。
実家にとって要らない、消えてくれということなら、ありがたくもらっておく。大歓迎だ。
しかし後者だったなら……下手をすると見つかってもう一度拉致される可能性がある。

(冗談じゃないで…)
アントーニョはギリっと歯をならした。
やっと手に入れた家族だ。実家にだって戻す気はないのに、正当な権利も持たない輩に渡すなんて本当に冗談じゃない。

実際起こったわけでもなく想像しただけなのにフツリと腹の底からわいてくる怒り。
それは体中を駆け巡って、抑えがたいほどの破壊衝動を引き起こす。
大事な家族を守りたいと強く思うのと比例して、それに近づく者全てを排除したい、破壊したいと言う暗く熱いドロドロした溶岩のような感情があふれてやまない。

「ああ…あかんやん…」
こみ上げてくる怒気を逃がすように、アントーニョは大きく息を吐き出した。
「こんなん見せたら怖がらせてまうわなぁ…」
と視線を向けた先では、ちょうどアーサーがトマトの葉にソッと唇を寄せている。

「ほんま…天使みたいやんなぁ…」
とたんに怒気は霧散し、ほんわり温かい感情があふれてきた。
アーサーの周りだけ空気が綺麗に輝いて見える。

それは実際はアーサーが魔法でトマトのために自然の理を少しばかりいじったせいなのだが、アントーニョはそんな事を知る由もない。

そこにあるのはただただ白くて綺麗で優しい空間。
心の奥底の一番大切だが脆く儚い部分と直結している。

「突かれたら嫌な大切なもんなんて…決まっとるやん。ここ突かれたら自分でも何するかわからん…。ましてや傷つけられたら心が壊れてまうわ」

昼食時のアーサーの問いを思い出した。
なるべく感情をぶつけないように答えたからか、軽く流された気がする。
まあ、それでいい。
自分の本気を知れば、きっと怯えさせてしまうだろうから。

「親分な、案外激しいんやで?」
ちょうどアーサーが移動を始めたので、アントーニョは誰にともなくつぶやくと、つけていたのを気づかれないよう一足先に家に着くために、クルリと反転して屋敷に向かって駆け出した。 動揺につけ込むのは戦略としてあり。



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