聖夜の贈り物 3章_5

(うあぁぁ~~なんなん、なんなん!!)
少年が目を覚ましたのは数時間後。
少しうるんだ大きな瞳がおびえたように揺れていて、そのくせ口だけは強がった言葉を吐くその様子は、まるで一生懸命周りを威嚇している初めて外に出た子猫のようだ。
(かっわ、可愛ええ~~~!!!)
何か心の奥底からこみ上げてきて、転げ回りたいような気持を必死に隠し、アントーニョはなんとか平静を装って、少年にここに連れてきた事情を説明する。

(ぽわぽわやん、ぽわぽわやん、子猫の毛ぇやん!!)
クシャクシャに撫でまわしたい衝動を必死に押さえて、ソッと撫でるにとどめたピョンピョン飛び跳ねた少年の短い金糸の髪は、見た目に反して柔らかい。

どこをどう見ても箱入りのお坊ちゃんなのに、本人は一人前と思っているらしく、自分が敵兵だったらどうするんだ、などと口をとがらせている様などは、可愛すぎて頭を撫でずにはいられない。

(あかん、あかん、あかんわっ!これはあかん!!ちょっと頭冷やしてこな)
このまま相手にしていると可愛すぎて奇行に走ってしまいそうだ。
しかたなしに料理を温めてくる事を理由にいったん席をはずす。

「とりあえずまずは美味しい飯やな。」
子供の歓心を惹くのに一番手っ取り早そうなのは美味しい食事だろうと、アントーニョは3人しか置いてない使用人の中で料理を担当しているメイドに、用意させておいたクリスマスの食事を温めるように命じる。

「どなたかお客様をお招きになりはったんですか?」
温められた料理をワゴンに並べて持ち運ぼうとするアントーニョに不思議そうに首をかしげるメイドにはついでに
「可愛い猫ちゃん拾ってん。部屋におるから俺もそっちで食うわ。で、猫ちゃん怪我して弱ってて神経質になっとるから、俺の部屋に近づかんといてや。掃除も自分でするさかい」
と、部屋に入らないように釘をさした。

とりあえず今日は良いとして、これからどうするか…。
人目につかせないためには出来れば故郷、ロマーノと過ごしたあの邸宅に戻りたい。
が、それにはまず少年、アーサーの了承が必要だ。
嫌がるのを連れ歩けばどうやっても人目につく。

「難しいやんなぁ…」
他国人でもアントーニョの側は全く無問題なのだが、アーサーにしてみればいくら命を救われたとはいえ、いきなり外国の知らない場所に連れて行かれる事に抵抗がないわけがない。
「はぁ~…どないしよ…」
結論が出ないまま、アントーニョはワゴンを押して自室に戻る。

「お待たせやで~」
とりあえず食事で釣ろうとしたアントーニョだったが、アーサーの方はどうも落ち着かない様子で、
「俺…一人で大丈夫だから、お前はもう行けよ。」
などと言ってくる。

警戒…されてるのだろうか?
離れたら逃げられる?

ドクン、ドクンと心臓の鼓動がうるさいほど脈打ち始めるが、アントーニョはあえてアーサーの落ち着かなさに気付かないふりで、体調でも悪いのかと聞いてみた。

(逃げんといて…離れんといて…)
アーサーの返答によっては自分は何をしてしまうかわからない。

祈るような気持ちでいたアントーニョに、アーサーが示した反応は意外なものだった。
こんなご馳走用意してるという事は、一緒に食べる相手がいるんだろう?気を使うなと、泣きそうな目で唇をかみしめる。
そして結局こらえきれなかったのか、その大きな瞳からはポロっと涙がこぼれおちた。

(ああ、もう!!なんなん、この子はっ!)
よしんば王からの緊急の呼び出しがあったとしても、人恋しさをにじませたこの可愛い存在を放って行けるわけがない。
(可愛ええ、可愛ええ、可愛ええ!!)
歓喜があふれてきて、体からふきだして爆発しそうだ。

嬉しさに叫び出したい気分になってくる気持ちを無理やり押さえつけて、料理は誰かと予定があるわけではなく去年までの習慣で用意してしまったということと共に自分の身分を明かし、それにかこつけて最後の難関、アーサーの家について探りをいれてみた。

金品で片がつくならいくらかかっても構わない。
アーサーを引き取れるなら、持っている物を全て差し出して傭兵にでもなって稼いでもいい。
まあ、ロマーノが知ればそんな事まではさせないだろうが、もしそうなったらなったで普通に労働で日々の糧を稼ぐくらいなんでもない。

だが金品で片がつかなかった場合は………アーサーの血縁相手に出来れば避けたいところではあるが、手を血で汚す事もいとわない。

自分の…自分だけの家族が欲しい、それはわずか5歳の時から持ち続けた悲願なのだ。
誰にも邪魔はさせない。

そんな物騒な考えを胸に秘めつつ、とりあえず交渉するところからとアーサーの家の場所を尋ねると、返ってきた言葉は
「わかんねえ」
「何が?」
「……全部」

なんと怪我をした時に頭でも打ったのか、記憶が全て抜け落ちてしまっているらしい。
これはもう…本当にサンタの埋め合わせなんじゃないだろうか。
というか…神様ありがとう!!!

………暗殺にするか、戦争しかけてつぶすか、別の家人を拉致してそれを人質にして脅すかまで考えてたんやけど………なんて言えへんけどな…。
と、心の中で物騒なつぶやきを追加するアントーニョ。

代わりに
「心配せんでもええよ。何も覚えてへんならうちの子になり?親分が全部面倒みたるから」
と、満面の笑顔で請け負った。 






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