寮生はプリンセスがお好き
それからは怒涛だった。 まず画像を見終わってすぐくらいにギルベルトが血相を変えて帰ってきた。
──えっと…カイザーは特にプリンセスについて触れてませんっ そう言っていきなり持参のタブレットで動画を流したのは、本当に存在感がなさ過ぎてそこに居ることも忘れそうな銀狼寮の寮生だった。
「…とりあえずお話を承ります。 こんな時間に訪ねて見えたのはどういうご用件ででしょうか?」
想像とは微妙に違う… アンは戸惑っていた。 てっきり周りの男どもにメソメソべたべたするしか能がないやからかと思っていたが、銀狼寮のプリンセスは凛とした佇まいで落ち着いていてどこか気品のある、寮長に継ぐ第二の銀狼寮の主だった。
うん?これは何が起こっているのだろう…と、目の前の光景の意外さにアーサーは小首をかしげる。
──え?な、なにっ?!! いきなり聞こえて来た悲鳴の声は高くて、しかし声変わり前の少年のそれとは明らかに違う。 つまり、この学園にいるたった一人の女性、新任の女性教師のものと思われる。
その夜、アーサーはモブ三銃士の一人のマイクと共にルートの部屋で過ごしていた。 いつもなら当然自室にいる時間だが、今日はギルベルトが金竜のプリンセスに助力を頼まれて金竜を混乱に陥れている金竜の寮長ロディの征伐に行っているので、一人は危ないとギルベルトからルートに預けられているのである。
たとえ逆ハーどころか攻略対象者全員に逃げられようと、このままでは終われないっ! 絶対に…絶対に一矢は報いるっ!!
ほとんどホラーだった。 綺麗で可愛く優し気なだけに、余計にこの状況での満面の笑みが恐ろしい。 怯えるアンを前にフェリシアーノはしばらくニコニコしていたが、 ──話すこと…ないみたいだね? と言うと、華奢な手で銀の呼び鈴をチリンチリンと鳴らした。 それで開いたドアから入ってきた人物...
「お待たせ。 ごめんね、ギルベルト兄ちゃんとの約束でアーサーは部外者に会わせられないから、お話はよければ俺が聞くよ?」 待たされたのはほんの5分ほどだったが、ギルベルトが金竜から戻ってくるまでという時間が区切られているアンにとっては非常に長く感じた時間。 しかもそれだけ待たされて...